よみタイ

群ようこ「今日は、これをしました」

引っ越しを控え、不用品整理をする

 着物が入っている桐タンス二さおは持っていくので、その上を拭こうとしたら、ここにはピンポン玉よりも二回りほど小さい、反古紙ほごがみを丸めたものがあった。しいは出窓から桐タンスの上に飛び乗れたので、よくその上にいて、私を見下ろしながら、元気よく、
「にゃああーっ」
 と雄叫びを上げていた。
「わあ、すごいねえ」
 といいながら、丸めた紙を投げてやると、見事な高速アタックで打ち落とす。ところがそれが私の顔面にヒットすると、結構、痛い。打ち落とすと、目を輝かせて、「早く投げて」と催促する。
「痛いから顔は狙わないでよ」
 と頼んだのに、わざと狙っているのか、アタックするとまた顔面を直撃する。するとしいはうれしそうに、また、
「にゃああーっ」
 と大声で鳴くのだった。まったくいったい何なのだと、私はぶつぶついうしかなかったのだが、しいはこの遊びが終わると、うれしそうに室内を走り回っていた。また棚の奥からは、しいが抱っこしたりして遊んでいた、またたびの木を十センチほどにカットしたものが見つかった。ふだんは掃除をしていないところを掃除すると、過去の思い出の品がいろいろと出てきたのである。
 二人掛けのカッシーナのソファは、しいが若いときにはベッドがわりにしていたのだが、歳を取ると床に寝るようになった。私もソファに座るよりも、椅子に座るほうが多いし、新居にはソファを置くスペースは作れないので、処分することにしたのである。ソファを移動させて、少しでもきれいに掃除しようと見てみたら、側面に水がにじんだような、それなりに大きなしみがあった。こんなところに水をかけるわけでもないしと、考えた結果、これはいっとき、うちとお隣に出入りしていた、外ネコのしまちゃんのマーキングの跡とわかった。床からの高さ的にも、しみの形状からみても、間違いなさそうだった。
 しまちゃんは最初、メスネコの匂いに誘われたのか、外階段を上ってうちのしい目当てにベランダにやってきていたのだが、しいは手術済みだし、その気もないので、彼の希望には添えなかった。しかしネコがいる部屋だけでなく、隣の部屋からも御飯をもらえるので、毎日、顔を出すようになった。ネコがいるほうの部屋は、飼っているネコの余り物ばかりだが、隣は、
「大変だね、精をつけるんだよ」
 と有精卵の生卵や、天然ブリの刺身などをくれるので、豪華な食事にありつける。縄張りを争っているライバルたちも、ここまでは来ないので、御飯を食べた後は、うちのベランダでだらーっとへそ天で寝ていた。
「外の人は大変だねえ」
 そういいながら、爆睡しているしまちゃんの姿をしいと見ていたものだった。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『おたがいさま れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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