よみタイ

群ようこ「今日は、これをしました」
物を減らす、無駄なことはしない、必要以上に買わない。
「しない。」生活のなかだからこそ、手に入れるもの、するべきことは
試行錯誤を繰り返し、日々吟味している群ようこ氏。
そんな著者の「しました、食べました、読みました、聴きました、着ました」
など、日常で「したこと」をめぐるエッセイです。


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旧住居を掃除する

今日は、これをしました 第20回

 怒濤の梱包作業と、その後のあれよあれよという業者さんの引っ越し作業によって、無事、運ぶべき段ボール箱、荷物は全部新居に到着した。しいのお骨は私が手持ちで持っていき、供養のスペースが定まるまで、テーブルの上に安置して、とりあえずはほっとしたのだけれど、それで終わるわけではない。
 引っ越しの翌々日に鍵の返却をして、完全に退去となる。私としては、午前中に引っ越しを終え、午後は旧住居に置いたままの不要品を、引っ越し業者さんが処分もしてくれるので持っていってもらう。不要品を運び出している間に各部屋を掃除して、きれいになったところで、すでに吸引力が弱まっている、ゴミが溜まった掃除機を最後に渡して、すべて終了となる予定だった。それがうまくいかなかったら、翌日にあらためて、小さなほうきなどで部屋を掃除しようと考えていた。
 旧住居は、一人暮らしには広く、若い頃はよかったのだけれど、二十七年も住んでいるうちに、当然、私も二十七年分歳を取り、住居スペースが七十八平米、ベランダを含めて百平米のファミリータイプの広さを、きちんと掃除をして整えることが難しくなってきていた。きれい好きな人ならいいのだが、もともと掃除が苦手で、各部屋の窓ガラスを磨くだけで、へとへとになった。なかにはそういった家事をすべて外注で済ませる人もいるけれど、私は自分でできることを他人にまかせるのが、どうもできないのだ。
 ベランダに面した角部屋の和室には、出窓のところに二面、ベランダ側に三面の障子がはまっていて、しいがちょっとでも障子紙が剥がれているのを見つけると、大喜びで手を突っ込んで紙を破いていた。大家さんが気を遣って、
「張り替えましょうか」
といってくださったのだが、
「替えていただいても、またすぐにネコが破ると思うので、このままでいいです」
とお断りし続けていた。以降、びりびりの障子紙はすべて取り去り、和室には紙のない障子の枠だけがはまっていて、その桟の埃を一本ずつ拭いて、きれいにするのも大変だった。歳を重ねた自分の整理整頓能力に不相応な部屋になってしまったし、それでよしと開き直れないところもあり、3LDKのスペースをきれいに保てなかったのがストレスになっていた。

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群ようこ

むれ・ようこ●1954年東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。広告会社などを経て、78年「本の雑誌社」入社。84年にエッセイ『午前零時の玄米パン』で作家としてデビューし、同年に専業作家となる。小説に『無印結婚物語』などの<無印>シリーズ、『散歩するネコ れんげ荘物語』『おたがいさま れんげ荘物語』などの<れんげ荘>シリーズ、『今日もお疲れさま パンとスープとネコ日和』などの<パンとスープとネコ日和>シリーズの他、『かもめ食堂』『また明日』、エッセイに『ゆるい生活』『欲と収納』『よれよれ肉体百科』『還暦着物日記』『この先には、何がある?』『じじばばのるつぼ』『きものが着たい』『たべる生活』『これで暮らす』『小福ときどき災難』、評伝に『贅沢貧乏のマリア』『妖精と妖怪のあいだ 評伝・平林たい子』など著書多数。

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