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直木賞作家・佐藤賢一さんが薦める、これを読めば「宗教」がわかる小説5冊

国際ニュースの背景を理解し、文化や精神的なバックボーンが異なる人たちとコミュニケーションをとるためには、「宗教」についての理解が不可欠です。
しかし実際には、「難しそう」「よく分からない」「なんだか怖い」と敬遠してしまっている人や理解を諦めてしまっている人も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、6月に『よくわかる一神教 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教から世界史をみる』を発表した直木賞作家・佐藤賢一さんに、「宗教がわかる小説」を教えていただきました。

東北大学大学院でフランス中世史を専攻し、中世や近世のヨーロッパを舞台にした歴史小説を中心に発表してきた佐藤さんは、どのような読書体験を通して、世界の宗教についての理解を深めてきたのでしょうか。
各本について、佐藤さんのコメントとともにご紹介します。

(構成/「よみタイ」編集部)

『モーセと一神教』(ジークムント・フロイト、筑摩書房)

オーストリアの精神科医・ジークムント・フロイトが、晩年、ファシズムの脅威のなか書き上げた書。
「原父殺害」、「潜伏期」、「抑圧されたものの回帰」といったフロイト自身の精神分析の理論を援用して、ユダヤ教の成立とキリスト教誕生の間に隠された謎を読み解く。

「かの精神分析学の祖が書いたものですから、小説ではありません。といって、宗教も、歴史も、専門外なわけですから、学術書ともいいがたい。自身ユダヤ人であるフロイトが、ユダヤ人はどこから来たのか、ユダヤ教という稀な一神教はどうやって生まれたのか、といった疑問に、大胆な仮説で『聖書』の記述を読み換えつつ答えていく──これが小説、それもミステリー小説の謎解きを読むようで、実に面白いのです」

『背教者ユリアヌス』(辻邦生、中央公論新社)

4世紀のローマ帝国の皇帝で、キリスト教への優遇を改めようとしたことで後世「背教者」と呼ばれたユリアヌス。幾多の試練を経てローマ皇帝に即位するも、遠征先のペルシアの砂漠で戦死するまで、その三十数年の生涯を描いた長編小説(全4巻)。

「キリスト教が世界宗教になったのは、ひとつには古代ローマ帝国で国教とされたからでした。自然と受け入れられたように考えてしまいますが、元々そこは多神教の世界です。キリスト教という全く異質な一神教が定着したのは、4世紀の皇帝コンスタンティヌスを皮切りに、歴代の支配者たち、権力者たちが、それを無理にも強制したからなのです。古くからの神々や、ギリシャ以来の哲学を復興させようとした「背教者ユリアヌス」の物語は、そのことに今さら気づかせてくれます」

『王妃の離婚』(佐藤賢一、集英社)

中世末期のフランスを舞台に、フランス王ルイ12世と王妃ジャンヌ・ド・フランスの「婚姻の無効」を争う裁判を題材とした西洋歴史小説。中世版法廷サスペンスの手に汗握る展開が話題を呼び、第121回直木賞受賞。

「拙作で、15世紀末のフランス王ルイ十二世と、王妃ジャンヌの離婚裁判を取り上げたものです。実際にあった裁判ですが、管轄の司法当局というのがローマ教皇庁、つまりはカトリック教会でした。カノン法という、キリスト教を法源に教会が定めた法律があって、これが事実上の民法として働いていたからです。教会は当時の家庭裁判所でもあったのです。中世ヨーロッパでは教会が強かったとよくいわれますが、これなら、なるほど強かったろうなあと、唸り唸りしながら書いた覚えがあります」

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