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『人のセックスを笑うな』を早送り視聴してはいけない理由とは?――「四角」関係を「視覚」化する映画の魔法

回収される「ライターの伏線」

 このあと、二人で遊園地に出かけたり、バイクに二人乗りしたりと、ツー・ショットによって二人の仲が深まるかのような描写が見られるものの、最終的にえんちゃんは堂本と急接近する。序盤のツー・ショット通りの関係性に落ち着いていくわけである。

 映画の最後のシーンで、みるめは、堂本が突然えんちゃんにキスするところや、まんざらでもなさそうなえんちゃんの様子を校舎の屋上から盗み見る。先ほどのツー・ショットが撮られたのと同じ屋上だが、今は一人ぼっちでいる。ユリは夫の猪熊さんと一緒にインドへ旅行に行ってしまい、みるめは取り残されたのである。

 みるめは、コートのポケットからライターを取り出して火をつけようとする。ユリからもらったライターである。しかし、ハート型のそのライターは、すでにオイルを使い切ってしまったのか、なかなか火がつかない。それはそのまま二人の関係の終わりを象徴するかのようだ。ところが、悄然とするみるめのフル・ショットから右手のクロースアップに切り替わった瞬間、唐突に火が灯る【図9】。文字通り、わずかな希望の火が見えたところで、「会えなければ終わるなんてそんなもんじゃないだろう」という字幕が表示されて映画は幕となる。

 ともすればゆるい空気感の映画と思われがちだが、その空気感を支えつつ、作品として成立させるためには緻密な計算が必要である。『人のセックスを笑うな』は、随所に張り巡らされた細かな工夫や伏線が絡まり合って有機的に機能している名作だと思う。ぜひ早送りすることなくじっくりと堪能してほしい。

【図9】
【図9】

【図版クレジット】
【図1〜9】『人のセックスを笑うな』井口奈己監督、2008年(DVD、ハピネット、2011年)

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伊藤弘了

いとう・ひろのり 映画研究者=批評家。熊本大学大学院人文社会科学研究部准教授。1988年、愛知県豊橋市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。京都大大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。著書に『仕事と人生に効く教養としての映画』(PHP研究所)がある。

Twitter @hitoh21

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