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『人のセックスを笑うな』を早送り視聴してはいけない理由とは?――「四角」関係を「視覚」化する映画の魔法

繰り返されるツー・ショットとライターの行方

 さて、喫煙所のシーンの後、みるめはユリのあとをつけ、彼女がリトグラフ(版画の一種)を制作しているところを見学する。みるめはリトグラフの道具を勝手に触って、ユリから冷たく「触んない」とたしなめられる。この記事の冒頭で引用したように、これはのちに彼女が口にする「だって触ってみたかったんだもん」という言葉とさりげなく対になっている。

 このあと、ユリとみるめは三度目の再会を果たすことになる。次の舞台はえんちゃんが受付のアルバイトをしている映画館である。ロビーの喫煙所のベンチに座るユリとみるめがツー・ショットで捉えられている【図7】。ちょうど先ほどのシーンでえんちゃんと堂本を切り取っていたのと同じニー・ショットのサイズである。ここでも二人の間には灰皿が置かれているが、先ほどのように仕切りになっている感じはしない。二人の間にはユリの鞄が置かれており、これがこの時点での二人の自然な距離感であるという印象を受ける。

【図7】
【図7】

 この二人と対比されるのが、みるめと彼に想いを懸けるえんちゃんとのツー・ショットである。校内でユリといちゃつきながら歩くみるめの姿を目撃したえんちゃんは、当然ながらショックを受ける。中庭に巨大なバルーンを設置する授業のシーンで、校舎の屋上に配置されたみるめとえんちゃんのツー・ショットが出てくる【図8】。にやつくみるめと不機嫌な表情を浮かべるえんちゃんの対比もさることながら、あいだに大きく広がる空間がそのまま二人の距離を表している。

【図8】
【図8】
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伊藤弘了

いとう・ひろのり 1988年、愛知県豊橋市生まれ。京都大大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。関西大、同志社大、甲南大非常勤講師。東映太秦映画村・映画図書室スタッフ。著書に『仕事と人生に効く教養としての映画』(PHP研究所)がある。

Twitter @hitoh21

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