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『人のセックスを笑うな』を早送り視聴してはいけない理由とは?――「四角」関係を「視覚」化する映画の魔法

解除されるツー・ショット

 その後、ユリとみるめは美術学校の喫煙所で再会する。ここでもツー・ショットが成立するかと思いきや、フレームの右側に無関係の学生が映り込んでいる【図3】。また、ちょうど二人の間に置かれた灰皿が仕切りのような役割を果たしている。これはたまたまそうなっているわけではなく、作為的なものであると考えられる。というのも、彼らの正面のベンチに座っているえんちゃんと堂本がはっきりとしたツー・ショットで提示されているからである【図4】。くわえてこちらの二人は紙パックの飲み物をストローで飲む動作まで共通している。

【図3】
【図3】
【図4】
【図4】

 このシーンで、みるめはライターを借りる際にユリに気がつく。しかし、ユリの方はみるめに気づいていない風である。つまり、みるめにとっては再会であり、ユリにとっては初対面ということになる。ここでは、みるめがユリからライターをもらうことが伏線になっている。

 映画には「関係が深まりそうな登場人物同士のツー・ショットをあえて解除する」という表現の仕方がある。それによって関係の進展にいったんポーズをかけ、観客を焦らすことができる。さらに、このシーンではショットのサイズを変えることで二組の二人組を対比させている。映画全体を通してカメラがほとんど動かない(固定カメラの多用)ことも、こうした対比をわかりやすくしている。二つのショットを見比べると、画面内に占める人物の身体の割合が異なっていることがわかるだろう。ユリとみるめは「ロング・ショット」、えんちゃんと堂本は「ニー・ショット」で捉えられているからである。

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伊藤弘了

いとう・ひろのり 映画研究者=批評家。熊本大学大学院人文社会科学研究部准教授。1988年、愛知県豊橋市生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒。京都大大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。著書に『仕事と人生に効く教養としての映画』(PHP研究所)がある。

Twitter @hitoh21

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