よみタイ

是枝裕和監督作に出てくるプール、海、湖、風呂……「水」の連想で読み解く「家族」の関係

記憶の水路が映画鑑賞を豊かにする

 何を見ても何かを思い出す。

 教団施設で姉のものと思われる匂い袋を見つけた敦に対して、きよかは夫の持ち物が見当たらなくてよかったと言う。彼女は最後に会った際に夫が残していった靴を処分できずにいまだに持っており、これ以上夫のものが増えても持て余すだけだからである。水道水にトラウマを持つ彼女は、夫の持ち物を見るたびに何かを思い出してしまうだろう。それは彼女が生きている限り続く。夫との思い出と、息子とこれから作っていく未来のあいだでうまくバランスを取れるようになってほしいと願わずにはいられない。

『DISTANCE』は是枝映画としては例外的に直接的な回想シーン(フラッシュバック)を用いた作品である。教団施設で過ごす一夜を通して、加害者遺族たちはそれぞれに事件を見つめ直し、その過程で加害者たちとの過去のやりとりを否応なく思い出すことになる。

「直接的な回想シーン」と書いたが、それがじっさいに起こったことかどうかはわからない。描かれるのはあくまで加害者遺族たちの記憶である。わたしたちもよく知るように、記憶は主観的なものであり、ときに可変的でさえある。経験や年月を重ねるうち、その内容や意味合いは変化していく。

 これはわたしたちが映画を見るときにも当てはまるだろう。同じ映画を見て何を感じるか、何を記憶に残すかは人それぞれである。必ずしも心楽しい記憶ばかりが残るわけではない。しかし、それでも、苦々しさや切なさといったネガティブな感情も込みで、一つひとつの記憶を受け止めるべきなのだと思う。深みは必然的に苦しみをともなうものである。その記憶の幅こそが映画鑑賞に豊かさをもたらす。そうして「水路」を張りめぐらせて、複数の映画を底流するようなあなただけのテーマをぜひ見つけ出してほしい。

イラスト:高橋将貴
イラスト:高橋将貴

注1:加藤幹郎「ジャンピング・スプラッシュ――プールと映画の文化史」、『映画の領分――』フィルムアート社、2002年
注2:是枝裕和、若木信吾『DISTANCE〜映画が作られるまで』スイッチ・パブリッシング、94頁
注3:同前、56頁
【図版クレジット】
図1~7 『DISTANCE』是枝裕和監督、2001年(DVD、バンダイビジュアル、2002年)

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伊藤弘了

いとう・ひろのり 1988年、愛知県豊橋市生まれ。京都大大学院人間・環境学研究科博士後期課程研究指導認定退学。関西大、同志社大、甲南大非常勤講師。東映太秦映画村・映画図書室スタッフ。著書に『仕事と人生に効く教養としての映画』(PHP研究所)がある。

Twitter @hitoh21

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