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私と同じ感動を味わって……女性用風俗ユーザーたちが積極的に交流する心理

女性用風俗、略して「女風」。かつては「男娼」と呼ばれ、ひっそりと存在してきたサービスだが、近年は「レズ風俗」の進出など業態が多様化し、注目を集めている。
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。
前編に続き、彼氏とのセックスに悩みを抱えて、女性用風俗の利用を決意したという由奈さん(仮名・25歳)のお話を伺います。

前編より続く)

 由奈さんは昔から性的なことへの関心は強く、好奇心を持て余していた。だから本当は色々やってみたいことがたくさんあった。

「実は私、昔から緊縛に興味があったんですよ。だけど彼氏にはそんなことは言えないからノーマルなセックスだけでした。本当は、一度縛られてみたいって思っていたし、他にも色々なアブノーマルなプレイにもチャレンジしてみたかった。
だから今度セラピストを指名したら、あんなことやこんなこともしたいって思うようになりました。その人ができるプレイから、私自身のやりたいリストを作って渡して実行してもらったんです」

 相手はテクニックを売りにしているだけあって、由奈さんの願望を難なく叶えてくれた。由奈さんは人生で生まれて初めて緊縛プレイも経験したし、それ以外のアブノーマルなプレイにもチャレンジした。そこにはひたすら悦びに満ちた世界が広がっていた。それまで溜めに溜めていた飽くなき探求心が爆発したのだ。セラピストとの逢瀬を重ねるにつれて、肉体的にも変化があった。気持ちよくなるだけではなく、初めてイクこともできるようになったのだ。
 しかし、由奈さんにとって何よりも大きかったのは、長年抱えていた性的な願望を、セラピストが眉をひそめることなく受け止めてくれたことではないだろうか。由奈さんの欲望のみならず、由奈さん自身と、真っ正面から向き合ってくれる初めての存在――。だからこそ、由奈さんは並々ならぬ「感動」を覚えたのだろう。

誰かとこの感動を共有したいという願望

 セラピストとの逢瀬を重ねるうち、由奈さんの中である願望が沸々と湧き上がってきた。

「この感動を誰かとシェアしたい、語り合いたいって思ったんです。だけどリアルな友達や親友は真面目なタイプなので、そんな話はできないんです。それでも誰かと話したくて、たまらなかった。だから女風の新人のセラピストさんなら聞いてもらえるかもって思ったんです。それで、優しそうで可愛い雰囲気の人をデートコースで指名しました」
「えっ? セラピストを!?」
「そうです」

 私は思わず椅子から転げ落ちそうな衝撃を受けた。しかし由奈さんはトレードマークの笑顔で、ニコっと笑っている。確かに女風の多くの店舗では性感コースだけでなく、デートコースも設けている。そのためデートコースは、ステディな話し相手として気軽に利用する女性も多い。しかし、セラピストとのめくるめく体験を聞いてもらうために、別のセラピストを指名するとは驚きだ。幾多の取材を重ねている私でも、そんな利用法は未だかつて聞いたことがなかった。
 しかし裏を返せば由奈さんにとって、女風での体験はそれほどまでに強烈な体験だったともいえる。自分の心と体に起きた感動を、誰かに語れずにはいられなかったのだから。
 とにもかくにも由奈さんは新人のセラピストと池袋の飲み屋で待ち合わせて、お酒を交わしながら女風の素晴らしさを語り合った。新人のセラピストは、そんな由奈さんの話を誠実に聞いてくれた。そして、最後には「俺もそんな存在になれるように頑張るよ」と和やかな雰囲気で別れたという。

「新人セラピストさんの健気な姿に心がアツくなりましたね。私のどうでもいい雑談もちゃんと聞いてくれたし、かわいくて良い子だなって思いました。だから最後は、頑張れ!とエールを送ったんです。性感は無かったんですが、彼が売れると良いなって思っていて、口コミを書いたりして、今も『推し』の成長を見守るような感覚で応援しています」

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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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