2023.2.26
「少女」でなくなり「女」でもなくなった私に、癒しをくれた女風の時間
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――。
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。
前回に続き、著者の菅野さん自身の初の女風体験が綴られます。
公園を一周すると、私の希望通り街の中心地にあるゲームセンターに移動した。そのゲーセンは地方によくあるノスタルジックな三階建の建物だった。場末感が漂っていて、思わず高校時代にタイムスリップした感覚に陥ってしまう。ゲーセンの一階はよくあるUFOキャッチャーなどのクレーンゲームが並んでいる。私たちはまずお決まりのぬいぐるみにチャレンジすることにした。聞くと高校時代、ゲーセンに入り浸っていた彼にとって、クレーンゲームはお手の物らしい。
「どれがいい?」「あれかな」
私は、おにぎりを持った猫のぬいぐるみを指さす。彼は「オッケー」というと、幾度かクレーンを上下させひょいと釣り上げて、私に差し出した。私はぬいぐるみを受け取る。
さらに二階へと足を進めていく。そこにはレーシングゲーム機がズラリと並んでいた。私たちは対戦することにして、横並びで座った。コインを入れて車種を選択して、ハンドルを握る。学生時代に免許を取って以来ペーパードライバーだった私は、壁にぶつかりまくってあえなく自爆。しかし彼は安定的なハンドルさばきで、レースを次々に勝ち抜いていく。
その姿には既視感があった。あれはいつだったか。脳裏に浮かぶのは、地元のゲーセンだ。そのレーシング機の片隅には、Yシャツのボタンを胸のあたりまで外した男の子数人と、制服のスカートを折り曲げた茶髪にピアスのイケてる女の子が陣取っていた。私はそんな彼らを眩しく見ていたっけ。かつて「あっち側」にいた彼と、「こっち側」にいた私――。
そのフレームがオーバーラップし、今ピタリと重なる。彼の隣に座った私は、まるであの女の子のようにその活躍を見守っていた。それがただただ心地よかった。次に目に入ったのは懐かしの格闘ゲーム機だった。親戚の男の子たちと家で飽きもせず遊んでいたあの格闘ゲームだ。私の様子をすぐに察した彼は、横に座り対戦を提案してくれた。
「これで遊びたい?」「うん」「いいよ、やろう。対戦しようよ」
20年以上ご無沙汰の格闘ゲームとあって、ここでも私は早々と彼に敗退してしまう。しかし彼は手慣れた様子で次々にマシン相手に敵を倒し続け、ファイナルステージまで進んでいく。暗い店内に煌々と照らし出されるゲーム機の画面。ゲーセンのどこか弛緩した時間は、今も変わらずあの頃を彷彿とさせる。しかし、よく見てみると微妙な変化に気づく。
「なんかさぁ、このお店メダルゲーム、無いね」
「そういえば、無いよね。昔はあったよねぇ」
かつてあったメダルゲームや競馬ゲームなどの台が入れ替わっている。時代の目玉だったプリクラ機もなりをひそめ、昔ほどは目立っていない。
