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「少女」でなくなり「女」でもなくなった私に、癒しをくれた女風の時間

女性用風俗、略して「女風」。かつては「男娼」と呼ばれ、ひっそりと存在してきたサービスだが、近年は「レズ風俗」の進出など業態が多様化し、注目を集めている。
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。
前回に続き、著者の菅野さん自身の初の女風体験が綴られます。

 公園を一周すると、私の希望通り街の中心地にあるゲームセンターに移動した。そのゲーセンは地方によくあるノスタルジックな三階建の建物だった。場末感が漂っていて、思わず高校時代にタイムスリップした感覚に陥ってしまう。ゲーセンの一階はよくあるUFOキャッチャーなどのクレーンゲームが並んでいる。私たちはまずお決まりのぬいぐるみにチャレンジすることにした。聞くと高校時代、ゲーセンに入り浸っていた彼にとって、クレーンゲームはお手の物らしい。

「どれがいい?」「あれかな」

 私は、おにぎりを持った猫のぬいぐるみを指さす。彼は「オッケー」というと、幾度かクレーンを上下させひょいと釣り上げて、私に差し出した。私はぬいぐるみを受け取る。
 さらに二階へと足を進めていく。そこにはレーシングゲーム機がズラリと並んでいた。私たちは対戦することにして、横並びで座った。コインを入れて車種を選択して、ハンドルを握る。学生時代に免許を取って以来ペーパードライバーだった私は、壁にぶつかりまくってあえなく自爆。しかし彼は安定的なハンドルさばきで、レースを次々に勝ち抜いていく。
 その姿には既視感があった。あれはいつだったか。脳裏に浮かぶのは、地元のゲーセンだ。そのレーシング機の片隅には、Yシャツのボタンを胸のあたりまで外した男の子数人と、制服のスカートを折り曲げた茶髪にピアスのイケてる女の子が陣取っていた。私はそんな彼らを眩しく見ていたっけ。かつて「あっち側」にいた彼と、「こっち側」にいた私――
 そのフレームがオーバーラップし、今ピタリと重なる。彼の隣に座った私は、まるであの女の子のようにその活躍を見守っていた。それがただただ心地よかった。次に目に入ったのは懐かしの格闘ゲーム機だった。親戚の男の子たちと家で飽きもせず遊んでいたあの格闘ゲームだ。私の様子をすぐに察した彼は、横に座り対戦を提案してくれた。

「これで遊びたい?」「うん」「いいよ、やろう。対戦しようよ」

 20年以上ご無沙汰の格闘ゲームとあって、ここでも私は早々と彼に敗退してしまう。しかし彼は手慣れた様子で次々にマシン相手に敵を倒し続け、ファイナルステージまで進んでいく。暗い店内に煌々と照らし出されるゲーム機の画面。ゲーセンのどこか弛緩した時間は、今も変わらずあの頃を彷彿とさせる。しかし、よく見てみると微妙な変化に気づく。
「なんかさぁ、このお店メダルゲーム、無いね」
「そういえば、無いよね。昔はあったよねぇ」
 かつてあったメダルゲームや競馬ゲームなどの台が入れ替わっている。時代の目玉だったプリクラ機もなりをひそめ、昔ほどは目立っていない。

写真:photoAC
写真:photoAC
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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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