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レズ風俗で「推し」に出会った私に起こったこと

自分を大切にされた記憶があれば、前を向ける

 人は誰しも孤独や寂しさを抱えていて、何かしらの支えが必要なのだ。体だけを要求する自分勝手なセフレ、煙のように消えてしまう女風のセラピスト――、男によって傷つき疲れ果てた美月さんがレズ風俗にたどり着いたのは、必然だったのかもしれない。ちなみに『推し武道』のキャッチコピーは、「君のために生きている」だ。美月さんもキャストへの思いは同じだろう。
 美月さんの心配するように、人生には必ず出会いと別れがある。だけどいつか別れの瞬間が来ても、「自分を大切にしてもらえた」という記憶は、その人の生涯にわたって励みになる気がする。そんなことを話すと、美月さんは確かにそうですね、と深く頷いてくれた。

「言われてみれば女風のキャストは、かつてのセフレとかとは全然違うんです。推しさんは誠実で、全然クズじゃないですしね。だからほんと、レ風のほうがいいよって色々な女性たちにお勧めしたいですよ」

 時間は、夜の21時過ぎ。刻一刻と、門限が迫っている。最後に将来の展望を聞くと、美月さんは少し意外なことを教えてくれた。あれだけ大好きなレズ風俗の利用を少し減らす予定だというのだ。驚いてその理由を尋ねると、美月さんはしっかりとした眼差しで私を見据えながら、こう答えた。

「私、一人暮らしをしようと思うんです。親が厳しいから抜け出したいんですよね。だから、お金を貯めなきゃと思って」

 私の直感だが、美月さんにとって一人暮らしは、新しい人生の第一歩になる気がしている。「溢れ出しそうな寂しさ」に苦しんできた美月さんの話は、聞いていて正直辛いエピソードも多かった。けれども、最後は意外にも希望が見えた。それは一条の光のようにも感じられる。美月さんが見ているのは、「前」で、「後ろ」ではない。しがらみだらけの実家を飛び出し自立する道を、美月さんは歩もうと決意している。もしかしたらそんなきっかけを与えてくれたのは、女性が女性に元気をもたらすレズ風俗かもしれない。
 いつかカラオケボックスではない場所で時間を気にせず、美月さんのレズ風俗談義を聞ける時が来るのだろうか――。きっとその時の美月さんは、今よりももっと笑顔と自信に満ちているのではないか。そんなことを思いながら、私たちは画面越しに手を振って別れた。

次回は2023年1/15(日)公開予定です。

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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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