2022.12.25
レズ風俗で「推し」に出会った私に起こったこと
「君のために生きている」
美月さんは推しのキャストと一緒にいる時間が、今、人生の愉しみとなっている。デートが好きな美月さんは、推しと一緒に展望台で絶景を見たり、動物カフェで癒されたり、マックでご飯を食べたりする。二人きりのデート中、キャストとの話は尽きない。好きなコスプレイヤーや、コンカフェ、カワイイ動物の話……。
「私たち気が合うんですよね。例えば好きな食べ物とか、恋愛の価値観とか一緒なんです。それだけでなくて、昨日、何してたって話になって、上着にアイロンを掛けてたって言ったら、私もスーツにアイロン掛けてたんだよって。そんなのある?みたいな(笑)」
そう画面越しにのろけてみせた美月さんは心底嬉しそうで、満面の笑みを浮かべていた。先ほどまでのセフレや女風の話をしていた時とは別人のようだ。そんな美月さんの表情の変化に、私も幸せな気分になる。美月さんはニコニコしながら、ある漫画のタイトルを挙げた。
「菅野さん、『推し武道』って知ってますか? 私、あの漫画の主人公の『えりぴよ』にすごく共感しちゃうんですよ。あの子の気持ちに近いんですよ」
『推し武道』とは、『推しが武道館いってくれたら死ぬ』という大ヒット漫画のことだ。主人公は、岡山県在住のパン工場でバイトしているフリーターの女性、「えりぴよ」。彼女は、地下アイドルの「推し」の女の子との出会いをきっかけにして、自分の収入の全てを貢ぐようになり、私服を売り払い、高校時代の赤ジャージ1枚で年中を過ごすという徹底ぶりで「推し」を応援する。推し活におけるファン心理をリアリティたっぷりに描いている作品で、漫画は100万部を突破し、アニメ化、ドラマ化までしている。
美月さんの日常は、まさに漫画の中のえりぴよと同じく、地味そのものだという。仕事は介護関係で、仕事に追われる毎日。低賃金で、人間関係のストレスも多い。普段はすっぴんでメイクも上手ではない。化粧も眉毛にアイラインのみで、周囲の目線も気にしないとか。実家暮らしで門限もあり、何かと窮屈な生活を送っている。
そんな日常がレズ風俗によって、にわかに輝きを帯びてきた。美月さんはキャストに会うとき、服装を吟味し、時にはプロの人に整形級のメイクをしてもらったり、美容院でトリートメントをしたりして万全の態勢で挑む。
1か月に一度の、シンデレラになれる瞬間――。自分にそんな元気を与えてくれる「推し」が、唯一無二のかけがえのない存在であることが窺える。
「推しさんは、本当に私の心の支えですね。例えば好きな芸能人とかのスケジュールって逐一チェックすると思うんですよ。よっしゃイベントあるからやる気出るぜって。あれと一緒なんです。推しさんに会えるのが生きるための活力源で、この人に会うために頑張ろうと思える。この日に会えるから、その日まで頑張って生きるわって思えるんです」
かつて私も芸能人の「推し」がいて、心の支えになっていたことがある。辛いときや苦しいとき、私もえりぴよや美月さんと同じで、推しこそが人生の生きがいだった。だから、美月さんのキャストへの気持ちは痛いほどによくわかる。
では、かつて抱えていた「溢れ出しそうなほどの寂しさ」に変化はあったのだろうか――。そう尋ねると美月さんは、少し悩みながらこう返してくれた。
「溢れるような寂しさはレズ風俗を利用してからは、なくなりましたね。ただ、嫉妬のような別の感情も出てきました(笑)。あと、また推しがいなくなったらどうしようという不安はあります。頑張れる支えがなくなっちゃう。そのとき私の心は持つのか、耐えられるのかな。だからTwitterで女風やレ風(レズ風俗)の誰かが辞めたって聞いたら、私も辛い気持ちがわかるから、『頑張れ、客よ』と思うんです」