2022.9.18
不惑を過ぎてSMに開眼! セックスレス20年超の人妻が出会った「プロのサディスト」
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――。
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。
今回は、ある変わった動機で女性用風俗を利用しているという明美さん(仮名・48歳)のお話を伺います。
私は、今年の春に女性用風俗をテーマにした本を上梓した。それに関連して何度か、著名人を招いて各所でトークイベントを開催することになった。もちろん販促を兼ねたものだが、女性用風俗について幅広い議論を呼び掛ける狙いもあった。
あるイベントでのこと、会場に向かって「取材に協力してくれる方がいらっしゃったらぜひ声を掛けてください」と言うと、さっそく一人の女性が帰り際に話しかけてくれた。見た目は40代後半ぐらいで中肉中背、黒髪のショートカットのごく普通の中年女性だった。
「私、ちょっと変わった女性用風俗の使い方をしているんです。もし良かったら取材に協力してもいいですよ」
「えっ? 変わった使い方って、どんな使い方ですか?」
私が尋ねると女性はちょっと周囲を見渡してから、声を潜めて私にこう耳打ちした。
「えっと、私が女風でお願いしているのは、SMプレイなんです」
イベントは終わったものの、会場にはまだ人が多く残っている。そんな中、唐突に囁かれたSMという単語に少しドキリとさせられる。「変わった使い方」をしている女性に、私は何人か心当たりがあった。私は元SM雑誌の編集者で、今もたまにSM関連の記事を執筆している。だから業界の事情にはそれなりに精通していた。ここ最近、業界の新しい潮流として、M女性をターゲットにした女性用風俗がじわじわと増えていることが、気になっていたのである。
一般的に女性用風俗というと、キラキラしたアイドルのようなルックスのイケメンが性的なサービスを行うのが王道とみられがちだ。しかしSMなどアブノーマルな性癖を売りにした女性用風俗も、根強い人気を集めている。縛られてみたいという好奇心旺盛な女性たちは私の周囲でも増えつつあるし、SMバーに行くと若い女性たちで溢れている。そんな業界の変化もあり、М女性向けの風俗店が多くなるのも頷ける。だからこそ私は女性の「ちょっと変わった女性用風俗の使い方」に俄然興味が湧いたのである。
後日、改めて女性に話を聞く運びとなり、私と女性は新宿駅近くの喫茶店の個室で再会した。定時になって現れた女性は、ここにくる前に緊張をほぐすため、お酒を一杯ひっかけてきたらしい。お酒の力も手伝ってか、女性の口からはムチ、縄、ろうそく、腹パン(腹パンチ)、アナルというワードが次々と飛び出すことになった。個室を予約しておいて良かった、と思わず胸を撫でおろしたのは言うまでもない。
ちなみに女性の名前は、中村明美さん(仮名)という。48歳、既婚、職業は事務方の管理職、そして、趣味はSM――。
24歳で結婚、セックスレスに
そもそもなぜ明美さんはSMの世界に足を踏み入れたのだろう。
それは、今から20年以上前に遡る。当時24歳だった明美さんは6歳年上の夫と恋に落ち、大恋愛の末に結婚をした。しかし、それからわずか1年も経たないうちに、セックスレスになってしまったのだ。
「夫はセックスに対して淡白なんです。そもそも元からセックスが好きじゃないんですよ。『俺、セックスは好きじゃない』って私に公言しますからね。オナニーで満足してるみたいです。だけど、私はそうじゃなかった。だから私がもうちょっと性的に淡白だったらお互い、幸せだったのかもしれないですね」
結婚1年と言えば、まだまだ新婚さんの域だ。もちろんお互いが合意しているならセックスレスでも全く問題はないと思う。しかしそうでないならば20代後半、しかも新婚と呼ばれる時期からのセックスレスは、相当つらかったのではないだろうか。
そう尋ねると、明美さんが「うんうん」と頷いた。現に20代の明美さんは、行き場のない性欲を解消することができず、悶々とする日々を送っていたという。
夫婦生活を巡って、何度か話し合ったこともある。しかし、夫に話すと「運動でもして発散したら?」と一蹴された。狂おしいほどの欲望は募っていくばかりだった。何よりも苦しいのは、夫のことは心の底から愛していることだ。夫は一見無骨な性格だが、人間としても尊敬しているし、心は通じ合っていると思う。だからこそいわゆる「性の不一致」だけが夫婦の問題だった。
散々悩んだ挙句、明美さんは性欲のはけ口を「外」に見つけるという苦渋の選択をすることにした。それが倫理的に正しいことではないのは重々わかっている。しかし湧き上がる欲望は、どうしても抑えることができない。夫に内緒で出会い系で知り合った相手とこっそり会って定期的にセックスする。そんな日々がかれこれ20年以上も続いている(!)という。20年という歳月にも驚かされるが、明美さんの話は、まだまだこれからである。