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菅野久美子 私たちは癒されたい ~「女風」に通う女たち~

夫とのセックスは“無”でやり過ごす女風ユーザーに迫る妊活のカウントダウン

女性用風俗、略して「女風」。かつては「男娼」と呼ばれ、ひっそりと存在してきたサービスだが、近年は「レズ風俗」の進出など業態が多様化し、注目を集めている。
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。
前回に続き、自身の結婚式の1ヶ月後に女性用風俗を利用したという結衣さん(仮名・30歳)のお話を伺います。

 様々なタイプのイケメンに会いたいという思いから、セラピストを「回遊」している結衣さんだが、特定のセラピストを指名しない理由は他にもある。それは一人のセラピストに会っていると、どうしてもそのセラピストのマイナス点が気になってしまうからだという。

「一回会うと、何かしらセラピストさんの良くないところが目についちゃうんですよね。
 例えば、身なりにあまり気を使ってないセラピストさんに当たったときは、ショックで落ち込んじゃいましたね。中には服が汚れていたり、髪が伸びきっていたりする人もいる。そんなときは内心むかついちゃったこともあります。こっちは何日も前から服装にとても気を使っているのに、って。以前会ったセラピストさんは、持っていたポーチがボロボロで、そこが変に気になってしまいました。
 あと私は煙草が苦手なんですが、煙草を吸った口のままキスされたこともあって、それはすごく嫌でしたね。そんな体験をするうちに、今よりももっといい人がいるかもって、色々なセラピストさんを回遊するようになったんです」

 こういった男性セラピストの身だしなみや所作を巡るエピソードは、女風ユーザーの多くが口にする不満でもある。女性用風俗というと、女性を性的に満足さえさせればいいと勘違いしている男性によく遭遇する。しかし、女性は男性が思う以上に男性の立ち居振る舞いをとてもよく観察しているものだ。
 そしてむしろ女性にとってはそれが重要な要素の一つだといえる。清潔感が欠けていたり、動作ががさつだったりすると、それは大きなマイナス点となり、次回の指名へと繋がりづらくなる。良いセラピストの条件とは、「性感」のテクニックよりもそんな細部にこそ気配りができる男性なのだ。もっとも、これは女風に限った話ではないのでは、とも思う。
 しかし、逆に言えば「女性のプロ」たるセラピストでも、そこまでの気配りのできる男性はまれな存在なのである。私は結衣さんの「回遊」の背景にある、女性たちの抱えるジレンマを感じてしまうのだ。

予約日に向けて自分を磨くように

 そんな結衣さんにとって楽しみの一つが、セラピストに会う前の時間だ。女風を利用し始めてから、人に見られることを意識するようになった。デパートで当日着ていく服を吟味し、下着を新たに買い、新作のメイク道具に手を伸ばす。肌荒れも気にするようになり、自然とスキンケアにも力が入る。そうやってオシャレしていると、ウキウキしてくる。

「最近はコロナで普段は在宅勤務なので、基本は家にいるんですよね。私は友達も多いわけじゃないので、オシャレして出掛ける機会もなかなかないんですよ。だからこれまでは、オシャレに気を使うことも無かった。だけど女風に通うようになって、セラピストさんと会うその日に向けて、いろいろ整えるようになったんです。服や下着を選んだり買ったりする、その時間が単純に楽しいんですよね」

 女風に通い始めて、「やってみたいこと」も増えた。大きなジャグジーでの泡風呂も体験してみたいし、モデルみたいな高身長のセラピストも指名してみたい。そんな「やってみたい」ことを一つずつ叶えていくことが、今の結衣さんの人生の楽しみだ。性の冒険に乗り出している時だけ、本当の自分になれた気がするからだ。

「昨日はジャグジーで泡風呂をやってみたくて、セラピストさんにお願いしたんです。ホテル代をケチって、狭い部屋にしたんですけどお風呂もすごく狭くて、泡の勢いがやば過ぎでしたね。泡を楽しむどころじゃなくなったんで、早く出たいなって思っちゃいました。なかなか難しいですね」

 結衣さんはそう言うと、少しだけ照れ笑いをした。失敗した経験を話す時も、結衣さんの表情は、どこか楽しそうだ。結衣さんにとってそんな失敗談でさえも、楽しい冒険の一コマなのだろう。

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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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