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不惑を過ぎてSMに開眼! セックスレス20年超の人妻が出会った「プロのサディスト」

SMで知った「快楽のスイッチ」

 そんな二重生活を送っていた明美さんが、SMプレイに目覚めたのは40歳を過ぎてからだった。付き合って3年になる今のパートナーはサディストで、SMの趣味があった。以前からSMに興味深々だった明美さんは、すくにその世界に傾倒していった。ちなみにSMと一口に言っても言葉責めなどの精神的凌辱を好む人や、肉体的な苦痛に興奮を感じる人など、それぞれ百人百様の嗜好がある。

 明美さんにとってSMプレイの魅力とは、肉体的苦痛が快楽へと昇華することだ。

「私は痛みなどの強烈な刺激を受けることで、それを快楽に変換することができるんです。例えば鞭などで打たれると、その痛みが逆に私の中では快楽へと変わる。私にとってSMプレイの面白さは、色々なプレイによって自分の体の快楽のスイッチがどんどん入っていくことなんです。自分の限界に挑むのも愉しい。それはセックスとは全く違うベクトルの愉しみですね。痛みは突然ガツンとくるじゃないですか。快楽もその分大きいんです。SMプレイを通じて、自分がどこまでできるのか、『検証』しているんですよ」

 明美さんはその後も、「検証」という言葉を頻繁に口にした。

 明美さんは、幼少期から自分の体の「検証」が好きな少女だった。イクという感覚を知ったのも、物心ついてからすぐだ。子宮が下りてくるような不思議な感覚、これがイクということなのか。それならどこをどうすればもっと気持ちよくなれるんだろう。少女時代の明美さんは自分の体を使って、それを「検証」するのに夢中になった。

 そんな明美さんがSMを知ったのは中学時代。たまたま学校の帰り道で道端に落ちていたSM雑誌を見つけたのがきっかけだった。恐る恐るページを開いてみると、そこには縄で縛られ浣腸されている女性の姿が載っていた。背筋がゾクゾクした。

「SM雑誌を初めて見たときに、これはエロい、凄いという感動があった。見てはいけないものを見ている感覚もありました。それでこっそり雑誌を持って帰って、それをオカズにオナニーしていたんです。だけど、ある日、それが見つかって家族に捨てられちゃったんです。あれは泣きましたね」

「それ、すごくわかります」と思わず頷いてしまう。私も昔部屋に隠していたエロ漫画を親に捨てられた苦い経験があるからだ。親に見つかってしまった羞恥心やら、オカズを失った絶望感やらで、落ち込みが半端なかったのを未だに覚えている。雑誌世代の男性ならば、エロ本を巡る親との攻防を一度は経験している人も多いかもしれない。

 しかしそんな後ろめたい体験は逆に明美さんの執念に火をつけたらしい。まだネットが普及していない80年代後半、神保町に行けばSM雑誌があるという情報を仕入れた明美さんは、お小遣いを手に電車を乗り継いで向かったのだ。当時の神保町はアダルト雑誌がまだまだ花盛りということもあり、中小様々な店舗が軒を連ねていた。そうして大人のふりをして古本屋でSM雑誌をゲットし、オカズにして思う存分「検証」に明け暮れた。明美さんは自身のことを「生粋のオナニスト」だと分析する。確かに明美さんの少女時代のオナニーへの並々ならぬ執念には、深く感心してしまうのだった。

 明美さんにとってSMは長年の「オカズ」であったが、SMプレイそのものは遅咲きの部類に入る。SMプレイは当然ながら相手がいないとできない。だから現実的なSM行為にハマるのは、やはり今のパートナーと出会ってからだ。ちなみに明美さんのように中高年になってから縄などのSMプレイに目覚める男女はかなり多い。そういう人は長年欲望を抑圧してきたからこそ、その反動も凄まじい傾向にあるのでないか、と私は密かに感じている。

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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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