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私たちは癒されたい ~「女風」に通う女たち~

ブラック企業の人間関係に疲れ果て……40代女性が女性用風俗にすがった切実な理由

女性用風俗、略して「女風」。かつては「男娼」と呼ばれ、ひっそりと存在してきたサービスだが、近年は「レズ風俗」の進出など業態が多様化し、注目を集めている。
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。

連載初回は、「相談にのってほしかった」という40代女性のケースを取材しました。

お父さんみたいな存在

「セラピストさんって、私にとってはお父さんみたいな存在なんです。父と娘みたいな関係かな。だから、他の利用者さんと私の女風の使い方はちょっと違うかも」

 目の前に座っている女性は、そう言うと無邪気に笑った。
 彼女の名前は、山本里美さん(仮名・40代)。黒のショートヘアからピュアな笑顔が覗く大人しそうな雰囲気の女性だ。
 女風の利用者は、一般的に性感マッサージやイケメンのセラピスト(編集部注:お店のキャストのこと)とのデートなど、性欲解消や疑似恋愛が目的であることが多い。しかし里美さんの口から頻繁に飛び出すのは「お父さん」という言葉だ。女風の「セラピスト」と「お父さん」。その単語のちぐはぐな響きに不思議な興味を抱きながら、私と里美さんはコーヒーを注文した。
 店主のおじいさんが注文を取りに来る。今日は平日の昼間で、あいにく駅前のカフェはどこもシャッターが下りていた。冷たい雨が横殴りで打ち付けるなか、私たちはかろうじて高齢夫婦が経営している古びた喫茶店を見つけて、駆け込んだのだ。店内を見渡すと客はおらず、けだるい時間が流れている。

「このお店、レトロですごくいいですよね。素敵なお店に出会えて良かった」

 里美さんは私と目を合わせると、にっこりと笑った。

ブラック企業に疲れ果て

 里美さんに女風を利用したきっかけを尋ねると、これまた「一風」変わっていた。
 里美さんが勤めていたのは、地方のブラック企業だ。電話で呼び出しがあれば、休日返上の出勤は当たり前だし、勤務時間は朝から深夜にまで及ぶ。しかも中堅の里美さんは中間管理職として、上と下に挟まれる辛い立場にあった。

「会社の後輩が問題児で、扱いには手を焼いていました。残業をして家に帰っても、電話で何時間も愚痴を聞かなきゃいけないし、突然プイッと仕事を投げ出したりもする。そのフォローに毎日追われる大変な生活だったんです」

 そんな日常を送っていると肉体的にも、精神的にも追い詰められていく。里美さんは蓄積した心労が災いして、何度か会社で気を失って倒れた。
 もう限界!――そう思ったとき、数年前に読んだ女性用風俗のネット記事を思い出した。

「女風のセラピストさんなら、きっと人の心のスペシャリストなんじゃないかって思ったんですよね。当時は後輩のことで本当に悩んでいて、どうしたらいいのかわからず、切羽詰まっていたんです。それで思い切って相談のDM(ダイレクトメッセージ)を送りました」

取材を受けてくださった山本里美さん(仮名・40代)。 撮影:菅野久美子
取材を受けてくださった山本里美さん(仮名・40代)。 撮影:菅野久美子
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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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