よみタイ

私たちは癒されたい ~「女風」に通う女たち~

死にたい気持ちを思いとどまらせた「セラピストとの約束」

女性用風俗、略して「女風」。かつては「男娼」と呼ばれ、ひっそりと存在してきたサービスだが、近年は「レズ風俗」の進出など業態が多様化し、注目を集めている。
女性たちは何を求めて女風を利用し、そこから何を得たのか――
『ルポ 女性用風俗』の著書もあるノンフィクション作家の菅野久美子さんが、現代社会をサバイブする女性たちの心と体の本音に迫るルポ連載。

前回に続き、女風の利用は「性感目的ではない」という里美さん(仮名・40代女性)のお話を伺います。

女風で味わった「陽だまりのようなあったかい」空間

 里美さんが三回目にセラピストと会ったのは漫画喫茶だ。性感を求めない里美さんは必ずしもラブホテルに行く必要はない。だから会う場所は満喫で十分なのだ。
 黒のボックスシートにセラピストと二人きり。セラピストは、立膝して背もたれを作ってくれた。骨ばった膝に体を預けてもたれかかって漫画を読んでいると、とてつもなく「あったかい」ものに包まれているような気がした。

「人と一緒にいて温かさを感じたのは、その時が初めてですね。まるで日なたぼっこしているような温かさでした。二人で密着していると、彼の心臓の鼓動が伝わってきて、すごく心地いいんです。これまで一人がいいと思って生きてきたのに、誰かと一緒にいたときのほうがあったかかった。気がつくと、ウトウトして寝落ちしていたんです」 

 陽だまりの中にいるようなじんわりとした温もりに、心が安らいだ。幼少期に幼馴染と野原を走り回って疲れ果てまどろむ感覚――。気がつくと、狭いボックスシートの中で思わず寝息を立てていた。
「私」を掴んで離さない拘束具のような現実、そこから束の間でも「解放」される瞬間。それは、世の女性たちが望んでやまない時間だ。
 セラピストの作り出す「あったかい」空間に抱かれること――、それはもしかして、自分で自分を抱きしめ慈しむ行為なのかもしれない、私はそう直感した。
 その後も里美さんはセラピストとDMを交わし、会社を退職する決断を下した。最後は自分自身で考え抜いてのことだった。

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菅野久美子

かんの・くみこ
ノンフィクション作家。1982年生まれ。
著書に『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(角川新書)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『ルポ 女性用風俗』(ちくま新書)などがある。また社会問題や女性の性、生きづらさに関する記事を各種web媒体で多数執筆している。

Twitter @ujimushipro

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