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愛娘を授かっても、新たな女に溺れる…不倫をやめられない夫の心理(第22話 夫:康介)

瑠璃子の現在―女は、全てを糧にして突き進む

午前中の裁判を終えた康介は、事務所に戻る道中で書店に立ち寄った。

一仕事片付いたタイミングで、久しぶりに何か小説でも読もうかという気分になったのだが……新刊コーナーを物色している途中で、ふと見覚えのある顔に目を奪われた。

真っ青な海を背景にした表紙に、飾り気のない笑顔を浮かべる女性が写っている。間違いない、小坂瑠璃子だ。

『幸せについて思うこと』と題されたソフトカバーは、その帯を読んでみると、瑠璃子の初エッセイ本であるらしい。

――エッセイを出したのか。

康介の知っている彼女は、不倫ゴシップやマッチングアプリのリアルなど都会の刺激的な話題を扱うWEBライターだった。爽やかな表紙もタイトルも、まるで瑠璃子らしくない。

一体、彼女は今どこで何をしているのだろう。

最低な別れ方をした自覚があったから、彼女の現在、そして彼女が語る「幸せ」の正体が気になり興味深くページをめくってみる。

するとすぐに、意外な事実が判明した。なんと瑠璃子は一年前に東京を離れ、福岡県・糸島に単身移住していたのだ。

エッセイ本には、現地で撮影されたと思われる写真も豊富に掲載されており、康介はページをめくるたび新鮮な驚きに包まれた。

どの写真に映っている瑠璃子も、別人のごとく肩の力が抜けているのだ。移住してからサーフィンを始めたようで、若いイケメンサーファーと向き合っている写真などは、心底楽しそうに、大口を開けて目がなくなるまで笑っていた。

――もしかして、彼氏か?

そんなことを思う立場も資格もないのに、つい邪推してしまう。それほどまでに、彼女の笑顔は輝いていた。

『東京を離れて気づいたことがある。以前の私は、他の女たちと同じアイテムを揃えられない自分が情けなくて、不憫で、それゆえ不幸だった。豪華な家、大きなダイヤ、自慢できる夫――だけど、私が幸せになるのに、そんなモノは何一つ必要なかった』

瑠璃子の紡ぐ言葉は、どういうわけか康介の胸を鋭く刺し、しばらくその場に立ち尽くした。

<完>

(文/安本由佳)

こちらの連載は、今回で終了です。
ご愛読ありがとうございました。

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新刊紹介

山本理沙

やまもと・りさ●84年 東京都生まれ。日本女子大学文学部卒卒業後、外資系航空会社客室乗務員、金融機関・コンサルティングファームの秘書業務を経てフリーランスへ。
2015年〜2019年に東京カレンダーWEBにて『東京婚活事情』『結婚願望のない男』『東京ホテル・ストーリー』など多数執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(里奈Ver.)共著原作者。『不良夫婦』では(妻side)を執筆。

Instagram●Lisa_fluffy
Twitter●山本理沙/WEB作家




安本由佳

やすもと・ゆか●81年 奈良県生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、化粧品会社広報、損害保険会社IT部門勤務を経てフリーランスへ。
2016年〜2020年1月 東京カレンダーWEBにて『二子玉川の妻たちは』『私、港区女子になれない』など多数の連載を執筆したのち、2020年10月講談社文庫より初書籍『不機嫌な婚活』を出版。よみタイで好評連載中の漫画『恋と友情のあいだで』(廉Ver.)の共著原作者。『不良夫婦』では(夫side)を執筆。

オフィシャルサイト●安本由佳
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