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文化人が集うゴールデン街「マチュカバー」のママにインタビューしたら、とんでもない人生の話が聞けた

新進気鋭の風俗ライターとして、タモリ倶楽部にも出演した山下素童さん。その類まれな観察眼と描写力から生まれる文章の熱狂的なファンは多いです。
そんな山下さんの初連載の舞台は、いま新しいお店・若いお客さんが増えているという「新宿ゴールデン街」。

前回は、山下さんがゴールデン街で働き始めてからの出来事を綴りました。
今回は、マチュカバーの店主・麻知子さんへのインタビューです。
※インタビュー時の実際に話をしている口調を再現しています。

伝説的な店のママ「せっちゃん」との出会い

山下素童(以下、山) : 今日はわざわざ営業前に時間をとって下さり、ありがとうございます。

麻知子(以下、麻) : 山下くんもこういうインタビューみたいな事をするだね (笑)

: ゴールデン街のWeb連載で今までずっと自分の話を書いてきたんですけど、ゴールデン街で働いている人の話を聞いてみようと思いまして。その初回なので、こういう取材みたいなことするのは初めてです。

: そうなんだ。うんうん。

: 麻知子さん、 インタビューとかされたことあります?

: なんか、いろいろ言ってきてくれる方はいたけど、タイミングが合わなかった事が多かった。何回かはあるけど。まぁ、でも、お客さんじゃないと基本受けてなかったです。

: そうなんですね。

: そうそう。

: 聞きたいことは、ゴールデン街でお店を始めた経緯とか、働いてみてどんな感じかとか、麻知子さん個人がどんな生き方をしてこられたのかとか。まぁ、普段お店で飲んでる感じで聞かせてもらえればと思います。麻知子さんと喋ってて面白いんで。

: 山下くん、あなたもだいぶ面白いけどね。

: ふふふふふふ。

: マチュカバーは、できてから19年くらいでしたっけ?

: そうそう。今年で19年目になるかな。きっかけは、他のオーナーさんとはちょっと違うと思う。私は。

: どういうきっかけだったんですか?

: 大体、普通のオーナーさんって元々ゴールデン街で飲み歩いてる方達が多いと思う。私は、ぜんぜん飲み歩いてなくて。お酒あんまり飲めないから。

: うん。

: むかし、仕事でスチールの写真を撮ってて。35ミリの一眼レフだけで、音楽雑誌やいろいろな媒体で人物メインの写真を撮ってたの。昼間、写真を撮るのにこの街に迷い込んできて。で、ウロウロしてたら、この通りの『せっちゃん』てお店のお母さん見つけて。今はもう亡くなっていないんだけど。最初、そのお母さん見つけた時、お店の前に大きなタライを出して手洗いで昔話に出てくるおばあちゃんみたいに洗濯をされてて。その瞬間に、せっちゃんの虜になってしまった。

: へぇ~。

: そのお母さん、せっちゃんて言うんだけど、洗濯がすごく好きみたいで。その時、写真撮らしてもらいながら、「あの、ちょっと1回遊びに行きたいです。私、ゴールデン街初めてなんですが」って言ったら、せっちゃんが「いいけどうち高いよ。それに、いつも開けてる店ではないよ」って言うから、どれくらい高いのかなぁとか思いながら、ドキドキしながら別日に1万5千円くらい握りしめて行ったら、せっちゃん私の事を覚えてくれてて、わざわざ私のために店を開けてくれた。せっちゃんは戦後からその店の2階に住んでらっしゃって、ゴールデン街では重鎮なんだけど、その時私は何も知らないから、今思えば、凄い人に声をかけてたんだなぁって (笑)

: なるほど。

: で、「あぁよく来たね」って言いながらお店を開けてくれて。そこのお店の料金設定が、15分で1杯3000円。

: 高いですね (笑)

: せっちゃんに気にいられた人は「あんたいい人だから」ともう15分いいよって、延長してくれて30分で何杯か飲ましてくれる。1時間飲み放題1万円っていう飲み方もあって。で、気に入られた人は1時間半くらい延長できる。

: へぇ~。

: そんなところでお酒も飲まずに、せっちゃんからいろいろな話を聞かせてもらって。せっちゃんの昔話や戦後のゴールデン街の話が滅茶苦茶面白いし泣けるしで、ワクワクしながら聞いてたら、ありがたいことに気に入ってもらったのよ。「あんたいい子だね」って。「2階おいでよ」って言ってくれて、せっちゃんの住居にしてる2階へ上げてもらった。上は生活空間になってて、綺麗に洗濯物が干してあった。窓から気持ちいい風が吹いてて。いい匂いがした。

: うん。

: で、「トースト食べるか?」って言ってくれて「あぁ、はい!」って言ったら、トースト2枚焼いてくれて。お皿の上にパン!パン!って勢いよく乗せてくれて、お箸でバターをつけてくれて。で腰を据えてじっくり、せっちゃんの人生話を何時間も聞かせてもらった。充実した贅沢な時間だった。

: それって夜に飲んだあとの話ですよね?

: うんうん。言うたって、20時くらいに行って、30分くらい下で喋って。で2階に上がったから。

: へぇ~。

: 話を聞きながら写真撮ったり、ムービー撮ったりしてて。そうこうしているうちに、私が突然せっちゃんの元で働きたくなって「アルバイトできませんか?」って聞いたら「あんたならいいよ」って言ってもらえて。20時から24時まで、週に2日くらいせっちゃんのとこでアルバイトしたのがゴールデン街初体験だった。

: そうなんですね。せっちゃんと出会ったのって何年くらい前ですか?

: マチュカバーが始まったのが19年前だから、せっちゃんのとこ行き始めたのはその2,3年前で、21年くらい前か。

: いうて2001年くらいの話ですよね。

: うん。そうそうそうそう。

: すごい昔の話に聞こえますね (笑)

: するよね (笑) だから私は、せっちゃんしか知らなかったし、他のゴールデン街のお店のこととか、付き合いは全くなかった。

: へぇ~。ゴールデン街の写真を撮りに行こうとしたのはなんでですか? 仕事でですか?

: ううん。私が普通に、ここ凄いなぁと思ってカメラ持って昼間ぶらぶらしてただけ。

: 趣味で?

: うん。作品撮りみたいな。

: んじゃ本当にフラッと来たんですね。

: フラッフラッと。そしたらすごい出会いがあったという。私、いつも思うんだけど、運命って過去のものだと思うんよ。何年か経って、今の自分の軸を基準に過去を振り返って初めて、あの時の出逢いは運命だったんかなぁって。あの瞬間があったから今の私がここにいるんだなぁって(笑)
で、3年くらいせっちゃんのお店でアルバイトをしてて、せっちゃんの妹さんもお店されてたんだけど、アルバイト期間に猫好き友達になって。あやママさんって言うんだけど、その方が「もう歳で引退するから麻知子ちゃんお店しない?」って言ってくれて、19年前に『マチュカバー』を開店する事になったの。

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新刊紹介

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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