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文化人が集うゴールデン街「マチュカバー」のママにインタビューしたら、とんでもない人生の話が聞けた

最初は「お仕事をしないといけない」と思ってた

: (笑) 最初、『マチュカバー』を開いたときは、どういうお店にしようとかイメージはあったんですか?

: 全然なかったような。お酒そんなに飲めないし、バーとか行かなかったし何もわからなかった。

: 話が来たから縁もあるしやってみるか、みたいな。

: そうそう。

: おそらく、最初と今はお店の雰囲気がだいぶ違いますよね。

: 違うかも。

: どういう違いがあります?

: 最初は「お仕事をしないといけない」と思ってたから、自分を今ほど出してなかったかな。

: なるほど。麻知子さんのお客さんに対する接し方が変わったってことですかね。

: うん。

: お仕事しないといけないってどういう感じなんですか?

: お客さまは神様です、的な。

: 自分の好き嫌いを出したり、楽しさを求めるというよりかは、無理することがあっても接客をちゃんとしないと、って最初は思ってたってことですよね。

: うんうん。

: そりゃ頑張りますよね。

: 最初はね。オープンしたての頃のお客さんと今のお客さんは違うかも。出だしからずっといてくれるお客さんもいて、残ってくれてる人は貴重な人 (笑) ゴールデン街ってね。多分300店舗くらいあって、どの店にもコンセプトみたいなのがある。例えば映画関係の人ばかり集まる店とかアニメ好きが集まる店とかアイドルやゲーム、小説とかその店独特のテーマ性みたいなのがあって。マチュカバーは、あえて言うなら「あらゆるジャンルの人達が人間対人間の話をしに来る店」かな。年齢もバラバラで。

: 確かにマチュカバーに来るとみんなで話す事が多いですよね。

:そうそう。だから私はいつも、お客さん同士を紹介する様にしてて。「この人は〇〇さんで、〇〇で」って。本当はその人が何をしてるとかって重要ではないんだけど、話のキッカケになりやすいのと、何か表現してる人とかだったら宣伝してみんなで応援とか出来たりするかもだから。有名とか権威とかは全くどうでもよくて。人と人をいい感じで繋げれたらいいなぁっていつも思ってて。だからこそ、変な人は入れたくなくて。

: 麻知子さんにとって変な人ってどんな人ですか?

: 人をなめてる人。自分の話しかしないで他の人の話を聞きたくないと思ってる人。チヤホヤされないと機嫌が悪くなる人。上から目線で偉そうな人。

:確かにマチュカバーでそういう人には会わないかもです。

: 私は心の広い人と思われてるかもだけど全然広くない (笑) 自分のキャパが狭いってことを知ってるだけで無理したって相手に嫌な思いさせるだけだし、こっちも嫌なので (笑)

: でも、マチュカバーって豊かな空間に感じられるんですよね。マチコさんの好き嫌いはっきりしてるからといって、狭い価値観の中に閉じこもってる感じはしないです。

: それは私がやっぱり、お仕事と思ってないからかも。すごい変なんだけど、お店の営業というよりも「私の部屋」的な感覚だから、いつもすごく楽しいし、マチュカのお客さんたちは本当に大切だし大好きなの。それに、いつもお客さんから、いろんなことを教わってて。まだ時間が浅い常連さんは「麻知子さんは何でも出来て凄い人」って思ってる人もいるかもだけど、実は私はポンコツで、知らないことや出来ない事だらけなので私がお客さんに支えてもらってることの方が多いから。

マチュカバーの店内の壁にはお店に縁のある人たちのポスターがたくさん貼られている
マチュカバーの店内の壁にはお店に縁のある人たちのポスターがたくさん貼られている
昨年12月にアーティストの我喜屋位瑳務さんの個展が開催されていたときのカウンター
昨年12月にアーティストの我喜屋位瑳務さんの個展が開催されていたときのカウンター

: 麻知子さんは良い意味で自分らしさをお店で出せるようになって、その後はずっと楽しくお店ができてる状態なんでしょうか。

: ん〜お店は楽しかったけど、ちょうど3.11のときに私が離婚をしてシングルマザーになって、まだ子供が小さかったから大阪の実家近くに住居を置いて、大阪からゴールデン街に10年間行ったり来たりと通ってたから。

: そんな形で働いてたんですね。

: そうね。1ヶ月のうち10日間はマチュカバーに毎日出て、残りの3週間はスタッフにお店まかせて大阪に帰って子供と一緒に生活するという。東京に10日間いる時だけ実家に娘を預けて。実家は大ファミリーだったので甥っ子も姪っ子もいっぱいいたけど、この時期は子供に寂しい想いを沢山させてしまったから。お店に立っていても、いつも子供の事ばかり気になってたな。だから、その間あまりお客さんのイベントとかにも行けなかったし。でも3年前に、こっち出てきてからいろいろ行けるようになったから嬉しい。

: こっちに出てきたの3年前なんですね。っていうことはちょうどコロナの時期だったんですね。やはりコロナでお客さんの数は減りました?

: 減ったね〜。

: それは困りましたよね。マチュカバーは『マチュカの時間』というYouTubeもやってますが、あれはコロナの時期から始めたんですよね。

:そうね。 YouTubeはコロナになってから。

: コロナになってから時間ができたり、お客さん少なくなったり、そういう理由があって始めたんですか?

: それもあるんだけど、一番気になってたのは、コロナになってみんな家にいないといけないけどいろんな事情で家にいたくない子供達ってどうしてるんだろうって気になってきて。だから、何かできたらいいなぁと。マチュカバーのお客さんって面白い人多いから、その人達に協力してもらって「今いる世界が全てじゃないよ」っていう何かを伝えれるかなぁって思いついて。 マチュカバーの常連さんも手伝ってくれる事になって。あの頃は特に、いろんなお客さんに、いろいろ助けてもらって本当に本当に感謝してる。

: YouTubeはマチコさんからやろうってなったんですね。

: うん。子供ってワールド狭いでしょ。学校と家と塾くらいしかないやん。今、その子たちの周りにいる大人の意見だけが全てになってしまうから「いろんな大人がいるよ」「いろんな考え方があるよ」「今はしんどくても大人になったら楽しいよ」って。うちのお客さん達の考え方が面白いし、いつもマチュカバーで話してる内容を聞いてもらえたらなぁって。マチュカバーって普段から皆さん違う意見を言い合ってても一切喧嘩にならないし違う意見を交換し合ってて。世間では、なんて言ったっけ、いろんな物の考え方することなんていうんやったっけ?

: いろんなものの考え方すること?ディベート?

: ディベートじゃなくて、対話、多様性か。最近は多様性ってすごい持ち出されてるけど、マチュカバーって元々そういう場やったから。それが面白いと思って。

: そういう空間ができたから、若い人に知ってほしいみたいな感じですか。

: うん。そうそうそう。いろんな考え方あるよーっていうのを、知ってもらえたらなぁ、みたいな。エリートコースみたいのに乗らんでも、中卒でも小説家なってる人もいるしさ。陰キャ陽キャとかあるやん。学校で。うち面白い人ほぼ陰キャだし。まぁ陽キャの人もいるけど。それが全てじゃないから。

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新刊紹介

山下素童

1992年生まれ。現在は無職。著書に『昼休み、またピンクサロンに走り出していた』『彼女が僕としたセックスは動画の中と完全に同じだった』。

Twitter@sirotodotei

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