性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。
これまでの連載では、元SM嬢のアヤメ、歌舞伎町で働く理系女子大生リカ、セックスレスの人妻風俗嬢ハルカ、パパ活・パーツモデルで稼ぐカオル、妊婦風俗嬢・アヤカの5人の女性を紹介してきました。
今から20年前、女子大生風俗嬢として働いていたミホさん。
大手企業への就職を機に、風俗から離れた彼女は、今どうしているのか――。20年ぶりの連絡に、彼女の反応は?
2020.12.25
大手メーカー勤務の40代キャリア女性が語る“風俗嬢だった若き日々”
ビックリしましたけど嬉しいです
そんなミホに、二十年ぶりに連絡を入れることにした――。
これまで一切、連絡を取っていない。就職をして忙しいだろうと思っていたし、新たな生活を邪魔してはいけないとの思いもあった、と思う。そうしてフェードアウトするように、記憶の枠外に押し出していた。
まあ、いまさら連絡を入れたとしても、八割がたは音信不通だろうなと予想しながら、当時の手帳に記していた、いまとは違う〇×〇で始まる携帯電話番号を、現在の〇九〇で始まるように変換し、通話ボタンを押す。
「はい、もしもし……」
二コールほどで女性が出た。まさか……。
「あの、突然のお電話すみません。××ミホさんの携帯でよろしいでしょうか?」
「はい。そうですが……」
一瞬だが、頭が真っ白になった。どうしようと慌てながら、必死で言葉を絞り出す。
「あの、すみません。以前、取材でお会いしたライターの小野一光と申します」
「え、あの、なんの取材でしょうか?」
電話の向こうの声色から、こちらがいったいなにを言っているのかわからない戸惑いが伝わってくる。
「あ、あの、その昔、風俗の取材で……」
「え? ああーっ、あのときの?……」
「そうです。そのライターの小野です」
「うわーっ、ご無沙汰してます」
それから私は、いまもライターを続けていること、当時取材した女性のその後を取材したいと考えていること、とりあえず結果はノーでも構わないので、説明のために一度会えないかということを話した。
「あ、まあ、いまは東京にいるんで、別に構わないですけど……」
ミホは突然の、しかも二十年ぶりの電話にもかかわらず、その週の週末に会うことを承諾してくれた。それは、まったく予想もしていない展開だった。
その夜、週末の待ち合せ場所について送った私からのショートメールに、ミホから返信があった。
〈ビックリしましたけど嬉しいです! お店了解しました。まだ行ったことがなくて気になっているお店でしたので、楽しみです〉
自分はなんて幸せ者なんだろう。心の底からそう思った。