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小野一光「限界風俗嬢」
過去の傷を薄めるため……。「してくれる」相手が欲しい……。
性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。

これまでの連載では、元SM嬢のアヤメ歌舞伎町で働く理系女子大生リカセックスレスの人妻風俗嬢ハルカパパ活・パーツモデルで稼ぐカオル妊婦風俗嬢・アヤカの5人の女性を紹介してきました。

今から20年前、女子大生風俗嬢として働いていたミホさん。卒業後就職した会社で着実にキャリアを積み重ねた彼女は、自分の過去をどう捉えているのでしょうか。

勲章か後悔か――女子大生風俗嬢の“その後”の20年

自分の稼ぎで生きていく

「ところでさあ、これまでの四十ン年の人生のなかで、性欲がいちばん強かったのって、いつ頃だった?」
「あーっ、三十五くらいかしら、ふふふふ」
「そのときは特定の彼氏がいて?」
「あ、そうですね」
「どうしてそのときがいちばん強いと?」
「うーんそれは一年間くらいで、短期間なんですよ。ホルモンの関係かなあ。いまのこの歳になったら、もうそんなに性欲はなくて、やるとしても、清潔な場所でやりたいな、とか、ははは。車内とか野外とかはもういいやって。あと、やる前は身ぎれいにしときたいとか……。だからいきなりとかは無理ですね、はははは……」
「自分のなかで高校とか大学とかその後も、いろいろ回ってきてみてさあ、なにか結論というか、教訓とかって生まれたりした?」
「結局あれですよ、なにかなあ、あの、自分の稼ぎで生きていく道を見つけなければならないってことですよ。それは安定してなければいけないし、リスクがあってもいけない」
「まあ、それが就職後の生活を続けさせたっていうかさあ……」
「そうです」
「それってさあ、風俗で働いて、周りの人を見たからっていうこと? さっきのお母さんみたいな歳の人とか……」
「それもあります。確かに。あと、同じ店にいたんですよね。国立大学を出てて、で、その人の彼氏がぁ、『注射器持ってるのよ』なんてこと言ってて。ちょ、待て待て待て、それやめたほうがいいよ、みたいな。巻き込まれないうちにやめろ、みたいな。だから、どんなに頭が良くっても、高学歴でも、ちょっと踏み間違えたら転落してしまうというのは、よく見ました」
「だからこそ、自分はちゃんと持ってないとダメって思った、と」
「うん。それにこの仕事は、確実に危うい路線だと。で、年齢制限じゃないけど、稼げる上限年齢ってあるじゃないですか。どっかで病気をするかもしれないし、なにも社会保障を受けられない状況だということで、ここに、この仕事に人生を委ねるべきじゃないっていうのがあって……」
「つまり風俗経験により、自分のなかに安定志向が芽生えたってことだよね」
「そうですね。ほんと十代、二十歳になるまでは、生きていければなんでもいいって思うわけですよ。それでもやっぱり、現実社会を垣間見た時期だったんですよね。これって、結局真面目に生きてたほうが、後々いいんではないかって結論になったんです」
 もっともな意見である。だがそこで、置き去りにされている話を蒸し返すことにした。

「社会を知るきっかけになったことはわかるんだけど、風俗って肉体を酷使する仕事じゃない。いろんな男が自分の体を通り過ぎていくっていう嫌さはなかったの?」
「まあ、そんときはあんまり。仕事って割り切ってたから。仕事。給料。それだけ」
「つまり嫌悪感はなかったわけね?」
「たまにはあるんですよ。不潔な人が来たときとか。そういう生理的な面での嫌悪感はどうしてもあるんで。エーッ、みたいな」
「いま現在の性に対する考え方とか行動って、二十代前半まで風俗の仕事をやってたことと、なにか関係してるってことはある?」
「いつも困るのは、こう……、ふふふっ、『どこで覚えてきたの?』って、えへへへ」
 照れ笑いだ。つまりエッチの際のテクニックが、半端ではないということだろう。
「そんなんねえ、『この歳になったら、そらあしょうがないわよ』とかって言って誤魔化すんですけどね」
「やっぱ違うのかねえ?」
「なんなんですかねえ。控えめにしてるつもりなのに。あんまりそんなにねえ、技はさらさないようにしてるつもりなんですけど」
「そうだよねえ。(ソープランドでの)マットプレイをするわけでもないのにねえ」
「ははは、そうそう」
「あ、そういえばさっきソープの話が出たときに聞いてなかったんだけど、ソープといえば本番があるわけじゃん。それに関しては抵抗なかったの?」
「あまりこだわりはなかったですね。一緒やん、みたいな。あと他の“嬢”の人たちが言ってたのは、結局そっちのほうが楽だと」
「それは自分もそう思ったの?」
「うん。ただ、全体的に体力はいりますけどね。この歳になったら、もう無理だと思う」

 

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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