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小野一光「限界風俗嬢」
過去の傷を薄めるため……。「してくれる」相手が欲しい……。
性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。

今回は、第4回から登場した歌舞伎町で働く理系女子大生・リカの続編。
キャバクラのアフターで知り合った「婚約者」と、すっかり落ち着いた暮らしをしているリカ。一方で、元SM嬢のアヤメは、同級生の彼氏との関係に悩んでいた。

風俗・キャバ嬢を経た女子たちの「リアルな恋愛観」

親友・アヤメに起こった異変

「そういえばさあ、アヤメちゃんが今年、彼氏と別れたじゃない。そんときに、かなり落ち込んでた、と。そこでリカちゃんに連絡を入れたら、すぐにやって来てくれた、という話をしてて……」
「てか、そもそも私が別れさせたんですよ。相談はずっと受けてて、『もう別れた方がいいのかなあ』みたいなことを言ってて、過去に何回もあったんですけど、そもそももう、価値観の根底の差が露呈してたんで、一回別れなよって言ってて……。さすがにあいつの彼氏の行動はねえだろうって、私の彼氏に『男としてどう思う?』っていう聞き方をしたら、同性としてもそれはないって言われて……」
 
 リカはこちらが成り行きを知っているとの前提で話を始めた。意味が分からない私は、「えっ、それはどういう行動について?」と問い直す。

「なんかもう、連絡しないし、全然……。元カノと二人で飲みに行ってたんですよ。で、後日、(アヤメが)『ゴールデンウイークなにしてたの?』って話をしたら、『元カノと飲みに行ってた』って言われて、『なんで言わないの?』って当然言うじゃないですか。そうしたら、『言ったら嫌がるのわかってたから』って。もう、嫌がるのわかってるなら飲みに行かなければいいじゃんって話で、嫌がるのがわかってても自分の欲望に勝てない男だっていうのが、それでわかっちゃったんですよ。やっぱ友達としては傷ついてほしくないし、好きなのかどうかわかんないってなってたんで、一回離れてみればいいじゃんって。それでほんとにお互い絶対好きだったら、もう一回戻るからって」
 
 私は「うん、うん、うん」と相槌ばかりを繰り返す。

「しかも、『あなたにとって恋人ってなんなの?』ってアヤメが彼氏に聞いたら、『友だちの延長線上』って言われたらしくて、でもなんかまあ、うちらは、友だちの延長線上ってどこまでいっても親友でしかないじゃんっていう……。逆に仲のいい友だちだったらセックスできるっていうことだよねっていう結論に至って、しかもそういう考えである以上は、結婚うんぬんとかも無理だし、価値観がその段階で違うよねって話をしてて、じゃあ別れるわってなり、なんかあったら話聞くよって流れで(会った)、ということだったんで……」
「ああ、そっかそっか。それで一応、前から相談も受けてたし……」
「ちょくちょく、会ってたんですよね。それでアヤメの元カレが、(ツイッターの)DM(ダイレクトメッセージ)で女の子に連絡取ってちょっかい出そうとしてたとか……。まあ、必要最低限の連絡も『別に一緒に暮らしてないんだから、いらなくない?』っていうようなタイプなんですよ。で、アヤメはほんとは連絡欲しいタイプなんで、そこでもやっぱ価値観が違うっていうのをずーっと言ってて、でもそれでもまあ付き合って長いから、『情があるから別れられないのか、ほんとに好きだから別れられないのか、もうわからない』って、ずーっと相談受けてたんで。そこまでいって、これから先、二年、三年と付き合って、ほんとに結婚してダメでしたって傷が深くなるんだったら、一回離れてみるのも手なんじゃないのって話を私が言ってて……」

 リカの言葉が止まらない。まるで事前に下読みをしていたかのように、淀みなく次々と言葉が湧いてくる。そこで私は質問を挟んだ。

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小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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