よみタイ

小野一光「限界風俗嬢」
過去の傷を薄めるため……。「してくれる」相手が欲しい……。
性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。

今回は、第4回から登場した歌舞伎町で働く理系女子大生・リカのその後が語られます。
婚約者との生活ですっかり落ち着いたように見えるリカ。過去に風俗の仕事をしていたことがバレてしまうことに怯える一方で、「家族の問題」については、ある程度知られているというが……。

実母からの過干渉、義父からの虐待――「毒親」から解放された歌舞伎町ライフ

母親からの電話でパニックに

 継父から過去に受けた行為を除く、母子間での揉め事については、旦那さんにはすでに知られているという。

「あの、一応家庭のゴタゴタはもう、旦那に見られたんで。ふふふふ。学生になっ……学生を辞めて、二十歳越えてるのに門限が十時ってありえない状況だったんですね。親が厳しいからずーっとそうだって話を私はしてて、まあでも実家に呼んだりとか、親に紹介したりとかはして、そんときは母親も化けの皮を被ってたんで、『思ってたよりは優しそうな人だね』とか言われたりしたんですけど、母親のヒステリックが起きたときに、もう包丁持って家で待ってるって状態があって……」
「えええ、そうなんだ?」

 門限十時や、母親も化けの皮を被ってなど、気になる文言もあったが、それ以上に包丁の話に驚き、単純な言葉しか返せない。

「それがもう私、怖すぎて、外でパニック起こしちゃって……。『早く帰ってこいよ!』みたいな電話がきてるときも、もう出れなくって。で、代わりに電話貸せって出てくれて、『まだ結婚もしてない、親族じゃないかもしれないですけど』みたいな、『あの、一応いまお付き合いしてる大事な彼女なんで、そんな危ない場所に帰せるわけないだろ』ってぷちっと切ってくれたんですよ」
 
 リカは母親の電話での恫喝を、それを模した怒鳴り声で表現する。

「そんときは母親も、『あんたには関係ないでしょ!』って。もう化けの皮が完全に剥がれてて。で、まあ、そのことがあって家にいるのも危ないし、もう離れた方がいいだろうって、無理やり家から出してくれて……」
「それが一年半前なのね」
「そうなんです。去年の三月かな」
「家を出て彼のところに転がり込んだの?」
「私が新しい家を契約するって言って。あの私、一人暮らしは絶対怖かったんですね。そうしたら『別に俺も引っ越しはできるから』って。『親もなんでもいいよって言ってるから』って。じゃ、新居探そうねってなって、いま歌舞伎町の近くに住んでるんですよ」
「そうなんだ」
「それで私が出勤に便利なところに決めたんで、家賃が高いから別に払わなくていいからって言って。ははは。十四万、1Kで月十四万するんで、さすがに学生で奨学金借りてる子に、半分払えとも言えねえなって思って」

 前から感じていたことだが、起業資金のことも含めて、リカはおカネについて頓着する様子を見せない。もちろん仕事で稼いでいるということもあるのだろうが、自分が持っているときは躊躇なく出す姿勢が垣間見える。私は話を変え、先ほどの彼女の発言で気になっていたことを質問した。

1 2 3

[1日5分で、明日は変わる]よみタイ公式アカウント

  • よみタイ公式Twitterアカウント
  • よみタイ公式Facebookアカウント

よみタイ新着記事

新着をもっと見る

小野一光

おの・いっこう●1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

週間ランキング 今読まれているホットな記事