性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。
そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。
ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。
今回は、第4回から登場した歌舞伎町で働く理系女子大生・リカのその後が語られます。
彼女の生活には急激な変化があったようで……。
2020.2.21
援交・風俗の仕事を離れた女の子が手にする「普通の幸せ」
「婚約者」ができたリカ
アヤメと会ってから、実母から逃げるために実家を飛び出し、いまは新宿に住んでいるというリカのことが気になった。
私は彼女が朝キャバ(クラ)の仕事を続けている可能性を考え、昼過ぎの仕事上がりのタイミングを選んで、近況を尋ねるライン(LINE)を送った。返事が来たのは一分後。相変わらず絵文字のない文面だ。
〈お久しぶりです。まだ朝キャバやっています。あとは、実家を出て婚約者と一緒に暮らしています。親ともある程度和解し、いい距離感になりました〉
落ち着いた文章にひとまず安堵する。その日は実家にいるので連絡できないという彼女に対し、私は新たに話を聞きたいので、後日改めて連絡することを伝えた。
翌日、急きょ出張の予定が入ってしまった私は、次に連絡できるのは一週間以上後になることをラインで伝え、改めてリカに連絡を入れたのは、それから九日後のこと。
〈こんにちは。連絡が遅くなりました。できれば近いうちに、お時間をいただくことは可能ですか? 難しい場合は電話でも構いません。ご都合のいい方を教えていただけると幸いです〉
このラインに対しても、リカは速やかに返信してきた。
〈こちらこそ、連絡できずすみません。今回は旦那が不在の時に電話という形が好ましいのですが大丈夫でしょうか??理由についてもその時にお話しようとは思っております〉
それからのやり取りで、これから夕方までの間なら大丈夫だということがわかり、私は取材の準備をして電話をかけることにした。
「もしもーし」
ラインの丁寧な文面とは違う、どちらかといえばフランクな様子でリカは電話に出た。そこで私は挨拶も早々に軽く切り出す。
「え、なんかもう結婚しちゃったの?」
「いやなんか、一応、まだ相手が学生で、来年就職なんで、四月から。そのタイミングでとりあえず事実婚ってカタチで扶養にだけ入ろうかなって思ってて……」
「そうなのね」
「そうなんですよ。二年一緒にいるんです」
「え、いつから? 二年?」
「一年半以上一緒に住んでて……。付き合って半年で同棲してました」
私はリカが「旦那」と呼ぶ相手についての情報をほとんど持っていない。ただ、どうやら前に話を聞いていたホストたちとは違うようだ。そこで尋ねる。
「あの、その人とはどこで出会ったの?」
「仕事のアフターでお客さんと行ったバーで働いてて、お客さん差し置いて……ははは」
リカは少し照れた様子で語り、笑う。
「一応まあ、結婚は考えているんですけど、過去のゴタゴタとかは、そこまで知られたくないんで……」
そういう理由で、私とは外で直接会っての取材ではなく、彼がいない時間帯の電話取材を選んだのだと語る。