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「あんたは何でも私のものを盗るからね――」 義父との行為に耐え続けた娘に、母が投げかけた言葉

どうせ汚れてるんだから、カネになるセックスをした方がいい

「高二になる春に、向こうから急に『好きな人ができたから別れて』って言われたんです。私は彼に幸せになって欲しかったから、『わかった』って身を引きました。だけど、じつは彼はそれから間もなくして死んじゃってたんです。自殺でした。私を傷つけないように、自分が悪者になって、やさしい嘘をついて別れてくれていたんです。それで高三になって、彼がそこまでして願ってくれたんだから、私も幸せにならなきゃと思って……」
 
 だが、そこでリカが選んだのは、あまりに性急な解決法だった。

「色んな相手と付き合ったんです。じつは死んだ彼がビジュアル系バンドが好きで、その系統の歌を教えてくれてたので、それこそビジュアル系のバンドマンとか、ツイッター(Twitter)で知り合った人とかと付き合いました。けど、あまり続かなくて、それで高三の夏休みに付き合ったのが“半グレ”の人だったんです。その人からは、精神的、肉体的、性的なDVを全部やられました。一瞬でも連絡の間が空くと、想像の域を超えた自分の思い込みで責めてくるんです。あと、向こうの家でセックスして、その人って遅漏なんですね、で、『私もう無理』ってなると、殴られて、首を絞められて、『殺すぞ』って言われて、最後はこっちの意識が飛ぶまでやられてました」

 まるで自分を罰するかのような選択ではないか。彼女は自嘲気味に呟く。

「いまだにそのときの“刷り込み”みたいな感じで、首を絞められたりしないと、感じなくなってるんですよね……」

 高三の十月で十八歳になったリカは、さらに自分を追い込むことができる権利を得てしまう。年齢的に、水商売の仕事ができるようになったのだ。

「それで歌舞伎(町)を知って、とりあえずおカネを稼ごうとなったんです。その頃は荒れてたんで、そこらへんで声をかけられたオジサンと援交とかもしてました。どうせもう汚れてるからいいや。だったらカネになるセックスをした方がいいって……。なんか、なにもうまくいかねえな、と思ってました」

 すべてにおいて捨て鉢だった彼女にもたらされた唯一の朗報は、この時期にツイッターで知り合った暴力団関係者に間に入ってもらい、“半グレ”の彼となんとか別れることができたということ。

「大変だったそっちの方が収まったので、もうこれ以上はバカバカしいなと思って、ちょっとしか遊ばなくなりました。その時期、受験も控えてたし……」

 とはいえ、それで暴風域を脱したわけではなかった。ついに、ひた隠しにしてきた“あのこと”が明るみに出てしまうのである。

「高三の大晦日に、理不尽なことで母親に怒られたんですね。そのとき頭に血が上って、つい『あんたの再婚相手に私がやられてるのわかってないでしょ』って言ってしまったんです。言葉にした瞬間、あ、もう、一度口に出したことは戻せないな、って思いました。母からは『どういうこと?』って問い詰められて、これまであったことを全部話しました。もう母は半狂乱ですよ。一度は一家離散になりかけましたけど、結局、母は義父と別れられなかったんです。それで私が母から『あんたが拒否しなかったのが悪い』って責められました。それ以降はなにかある毎に、『あんたはなんでも私のものを盗るからね。男でもなんでも』って言われるようになったんです」
 
 彼女はそれから間もなく大学受験をして、三校に合格した。それは、胸の内に溜め込んでいたものを一気に吐き出したことが、リカにとっての解毒になったのではないかと思わせるほどに、予想もできない結果だった。事実、このことがあってから、義父による性暴力はすっかり鳴りを潜めたと彼女は語る。
 しかしその一方で、母親に刺されたいくつもの棘は、釣り針の“かえし”のように引っかかったまま、リカの心から抜け切れずに残っていた。

大学生になったリカは、渋谷のホテヘルで働き始め、超人気風俗嬢となるが――第8回に続く
「歌舞伎町で働く理系女子大生リカ」第1回はこちら。
第2回はこちら。

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新刊紹介

小野一光

おの・いっこう
1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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