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「あんたはいらない」 実の母にそう言われた娘が、14歳のときに義父にされたこと

過去の傷を薄めるため……。「してくれる」相手が欲しい……。 性暴力の記憶、セックスレスの悩み、容姿へのコンプレックス――それぞれの「限界」を抱えて、身体を売る女性たち。 そこには、お金だけではない何かを求める思いがある。 ノンフィクションライターの小野一光が聞いた、彼女たちの事情とは。 前回登場した、朝と夜はキャバクラ嬢、昼はITエンジニアとして働く女子大生のリカ。 今回は、幼いリカの実父との別れ、新しい父の登場が語られます。

私の彼氏は「ナンバーさん」

 リカが食べ終わる頃を見計らって会計に立ち、連れ立ってカラオケボックスへと向かった。あてがわれた部屋には窓がついていて、眼下に真昼の歌舞伎町が見下ろせる。夜になるときらびやかなこの街も、陽の光の下ではあちこちに綻びが目立つ。

「いまの彼氏は二十八歳のホストです。彼が本命なんですけど、ほかに二十三歳のキープがいて、あともう一人、二十二歳の子もいます。全部別の店で“ナンバーさん”ですね」
 
 彼女が言う“ナンバーさん”とは、個人の売上高が高く、店のナンバー××(順位)として、ホストクラブの入口に写真が飾られているホストのことらしい。

「最近モテるんです。だから全部ホストなんですよ。『一目惚れした』とかって言われるから。で、私が『会いたい』って店に行くと、『俺がおカネ払うよ』とか『ほかのお客さんといるとこ見たくないだろうから、VIP(ルーム)に入れるよ』とか……」

 ただ、そう口にするリカの心は決して安定しているわけではなく、彼らに縋っている部分もあるようだ。

「私が一日中キャバ名の“フミカ”でいることが三日続いて、久しぶりに本命の彼から電話で、『リカ、起きてる?』って言われて、ポロポロポロって涙が出てきたりするんですよ。どうしよ私、キャバ嬢辞めて捨てられたらどうしよう、とかって思うこともありますね」
 
 私はリカに現在の収入について尋ねた。

「朝キャバで月に四十万から五十万円。あと、夜キャバが十五万から二十万円です。夜キャバについては、オーナーと知り合いなんで、店が軌道に乗るまでは売上バックとか、時給もそんなにいらないって言ってるから、少なくなってます。それと昼のプログラミングもあるけど、これはそのとき次第なんで……」
 
 とはいえ、同世代とは比べ物にならない高収入に舞い上がっている様子はない。そのことがリカの次の言葉で納得いった。

「うちって母方が元々おカネ持ちなんですよ。祖父が××の副社長だったし、親戚が××の社長をやってたりとか……」

 ともに一部上場の、誰もが知っている有名企業の名前が挙がる。ただし、名家の出で裕福ならば幸せであるとは限らないという、“世の常”のような状況も、彼女の話からは伝わってくる。

「私がまだ小さいとき、寝てて目を覚ますと両親の喧嘩の声がしてました。それが嫌で布団を被ってたんです。その結果、両親は私が幼稚園に入る前から別居してました。ある日母に『お父さんとお母さん、どっちがいい?』って聞かれて、何も考えずに『お母さん』って答えたんですね。そうしたら『引っ越すよ』って。もう私としては『え?』って感じですよ。けど母は『お父さんとお母さん、喧嘩しちゃった』って……」

 リカの父親はとある業界の専門職で、知名度も稼ぎもそれなりにある人物だった。だが、それ以降、彼女は父親と離れて暮らすことになる。
 母方の祖父母宅などを経て、東京都下の町で母親と二人暮らしをしていたリカだったが、とくに困窮を感じることはなかったという。その理由について、彼女があとになって知ったことがあるそうだ。

「元父が私の養育費を月に四十万から五十万円払ってたんです。小三のときから私は××(有名塾)に通ってたんですけど、その費用も元父が払ってました」
 
 ここでリカが「元父」との言葉を使ったことで、その後の展開が頭に浮かぶ。

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小野一光

おの・いっこう
1966年、福岡県北九州市生まれ。雑誌編集者、雑誌記者を経てフリーに。「戦場から風俗まで」をテーマに、国際紛争、殺人事件、風俗嬢インタビューなどを中心とした取材を行う。
著書に『灼熱のイラク戦場日記』『風俗ライター、戦場へ行く』『新版 家族喰い——尼崎連続変死事件の真相』『震災風俗嬢』『全告白 後妻業の女』『人殺しの論理』『連続殺人犯』などがある。

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