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篠田節子「介護のうしろから『がん』が来た!」
認知症の母を介護しながら二十年。ようやく母が施設へ入所し、一息つけると思いきや――今度は自分が乳がんに!?
介護と執筆の合間に、治療法リサーチに病院選び……落ちこんでる暇なんてない!
直木賞作家・篠田節子が持ち前の観察眼と取材魂で綴る、闘病ドキュメント。

前回まではこちら→https://yomitai.jp/series/gangakita/

ここは絶海の孤島!? パラオ1

介護のうしろから「がん」が来た! 第44回

 小雪のちらつく成田を発って四時間半。眼下にコバルトブルーの海と紫がかった珊瑚礁が見えてくる。
 ほどなく着陸。通路を歩き始めた瞬間に身体を包む、湿った暑い空気と南方の木々の吐き出す緑の香。
 再建手術の傷は順調に回復している。残ったもう片方の乳がん検診も終わらせ、後は結果待ちだ。二週間前から水泳も解禁になった。青天井の四日間が始まる。
 
 午後遅くに到着したので、その日はホテルにチェックインしただけで終わる。
 部屋に荷物を置き、むっとする草いきれの中を歩きホテル近くのジェラート屋に。
 景観も何もない小さな店だが、イタリアから来たお兄さんが作るジェラートは、濃厚なナッツ風味、果物そのものの味のトロピカルフルーツソルベ、大人の味のチョコレートと、どれも天国の美味。
 店内はANAで着いたばかりの日本人のお姉さんやおばさんのグループ、そして中国から来た色白の若者たち、韓国人のカップルなどで賑わっている。
 巨大カップに入った三種類のジェラートを食べながら、おもむろに携帯の電源を入れる。
 ええと、飛行中の着信は……
 え?
 つながらない……。
 電話も、メールも、だめ。うそっ。
 おいっ、ドコモ、最近はここでもローミングサービスができるはずじゃないのか?
 
 スプーンをくわえたまま固まった。
 慌てて残りのジェラートをかっこみ、ホテルに戻ると着替えもせずにノートパソコンを広げる。
 ネットが繋がらない。

photoBさんによる写真ACからの写真
photoBさんによる写真ACからの写真

 

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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