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篠田節子「介護のうしろから『がん』が来た!」
認知症の母を介護しながら二十年。ようやく母が施設へ入所し、一息つけると思いきや――今度は自分が乳がんに!?
介護と執筆の合間に、治療法リサーチに病院選び……落ちこんでる暇なんてない!
直木賞作家・篠田節子が持ち前の観察眼と取材魂で綴る、闘病ドキュメント。

前回まではこちら→https://yomitai.jp/series/gangakita/

明日を憂うな ただ楽しめ

介護のうしろから「がん」が来た! 第43回

 これでもう、耳ピアスの若い施設長のいるJでほぼ決まりよね、と思っていると、ほどなくそのJの担当者から連絡があり、入居が正式に決定したことを告げられる。
 必要な書類の準備、様々な手続きや部屋の清掃、ベッドやカーテンの交換などもあるため、引っ越しは、四月に入ってからになるとのこと。
 行き先が決まれば、あと一、二ヵ月は老健も母を置いてくれるだろう。その間に実家を片付け、持っていく家具などを見極めて選ぼうと計画を立て始めた矢先、突然、待機者が列をなしていたはずのHから電話がかかってきた。
 こちらも入居が可能になったとのこと。
 はぁ? どうなってるの?

 主治医の診断書と脳のMRI画像の入ったCDを持って来るように指示されるが、主治医が、母が入所している老健の施設長であることを告げると、「わかりました、それではこちらで直接、取り寄せます」とのこと。
 おそらく老健ともともと連携体制が取れていて、優先的に入れてもらえることになったのではないかと思う。
 断る理由はない。
 すぐにJに電話をかけ、理由を話し謝罪し辞退の旨を伝える。担当者からは「まったくかまいませんよ」と寛大な返答をいただいた。
 こうして市内のグループホーム14ヵ所のうち、母の入院前に見学させてもらったところを含めて、12ヵ所を回った時点で、行き先が決まった。動き出してからちょうど一ヵ月が経っていた。

 市内のグループホームを片端から巡るかたわら、無人となった実家の風入れ、合間をぬって本業の執筆と、息つく暇もなく過ぎていった一ヵ月間であった、などと書きたいところだが……。
 そこは浅慮で無謀な女のこと、昨年の手術から16日後のバンコク旅行に続き、この切羽詰まった状況下で、今度は、パラオ行きを決行していた。

traveloveさんによる写真ACからの写真
traveloveさんによる写真ACからの写真

 

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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