よみタイ

篠田節子「介護のうしろから『がん』が来た!」
認知症の母を介護しながら二十年。ようやく母が施設へ入所し、一息つけると思いきや――今度は自分が乳がんに!?
介護と執筆の合間に、治療法リサーチに病院選び……落ちこんでる暇なんてない!
直木賞作家・篠田節子が持ち前の観察眼と取材魂で綴る、闘病ドキュメント。

前回まではこちら→https://yomitai.jp/series/gangakita/

先生、痛がってる余裕、ありません

介護のうしろから「がん」が来た! 第29回

 翌早朝、ヒマなのでベッドでテレビなど見ていると、乳腺外科のY先生がふらりと現れ、「前よりずっと楽でしょ」と声をかけていかれる。
 今回は形成外科の手術なので、傷口を見たりはしないが、Y先生の顔を見て何となく和む。
 
 それにしても前回もほとんど痛みや気分の悪さがなかったが、今回はさらに軽い。
 半年ほど前、集英社の女性編集者の方に「篠田さん、美容整形で一番痛いのは、豊胸手術って知ってました?」と言われて、ぶるぶるしていたのだが、豊胸手術と乳房再建は根本的に違うようだ。

 Y先生が去った後、形成のN先生がぞろぞろと若い先生方を連れて病室に入って来られた。
 手術をしてもらったレディースチームの面々ではない。ほとんどが男性医師。
 N先生が胸帯を取って傷口を確認。
「ふんふん、いいようですね。出血もないし」 
 手際よく絆創膏ばんそうこうで留めて完了。
 男子たちを引き連れてN先生は、さっそうと退場。あれが大学病院名物の回診ってやつ?

 その日の昼前には退院したが、ドレーンが抜けるまでの間、八王子の自宅には戻らず、病院向かいにある銀座クレストンホテルに二泊することになっている。
 食事制限もないので、近くのインド料理屋でカレーランチ。
 軽い手術を甘く見ていた。

 チェックインしてホテルの部屋でパソコンのスイッチを入れたあたりから、胸や手首、脂肪腫を取ったあたりがかゆくなってきた。かゆい、などという生やさしいものではない、針で刺されるような鋭角的なかゆみ。ガーゼや点滴の針を留めた絆創膏にかぶれた。
 点滴の針を留めた跡は、テープがもうないにもかかわらずかゆい。小さな水ぶくれができている。
 自分の体が自分の体を攻撃しはじめた。
 
 それでも仕事をしていれば心頭滅却で多少は忘れるが歩き回ったり、食事したりすると途端にかゆみの攻撃スイッチが入る。かきむしるわけにもいかず、ゲラを見ながら、二日後にドレーンが抜けて少し絆創膏が小さくなるまでひたすら耐えた。

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篠田節子

しのだ・せつこ●1955年東京都生まれ。作家。90年『絹の変容』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。
97年『ゴサインタン』で山本周五郎賞、『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞、11年『スターバト・マーテル』で芸術選奨文部科学大臣賞、15年『インドクリスタル』で中央公論文芸賞、19年『鏡の背面』で吉川英治文学賞を受賞。『聖域』『夏の災厄』『廃院のミカエル』『長女たち』など著書多数。
撮影:露木聡子

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