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移住の前に、本当はやっておかなければならなかったこと

発想にまったくなかった、恐らく移住に必要なこと

 福岡に移住した友人との会話の中で、移住支援金の話が出てきました。……あ、すっかり忘れてた。
 住民票を移動する際、不動産屋の久保さんから霧島市にも移住支援制度があるとは聞いていましたが、仕事の忙しさにかまけて完全に抜け落ちていました。
 いただけるものはいただきましょう! と、早速市の中心部にある市役所の地域政策課を訪れることにしました。
 不思議な赤いモニュメントの横を通って、比較的新しい大きな大きな庁舎の4階に上がって必要書類の一覧が記載されている紙を受け取ると、
「今、申請が多いので、受け取るまでに少し時間がかかると思います」
と言われました。ん? 申請が多いとな?
「それって、移住者が増えているってことですか?」
「お陰様で(にこり)」
少子高齢化でどこの町も人口が減っていることは明らかでしたが、霧島市の移住者が増えているとは思っていなかったので、意外な回答でした。なんでや。
 
 考えてみれば、確かに霧島市は鹿児島県のなかでも2番目に人口が多くて、私にとっては、すごくバランスのいい町です。霧島温泉郷という観光資源をもっていて、海も山も車ですぐに行ける場所にある。私が住んでいるような山間部の生産地もあれば、国分や隼人のような市街地もあって、どこに行くにも車を少し走らせればいいだけ。住めば住むほど、なんて暮らしやすい町なんだろうと実感してはいましたが、同じように考える人が増えているのでしょうか。うーん、お目が高い(何様)。
 そして、はたと気づきました。もしかして、みんな移住する前に市役所に相談するのではなかろうか。一応、お試し移住制度というものが存在していて、コロナ禍で中止になっているという情報だけは知っていましたが、そもそも「役所に相談する」という発想が私にはまったくありませんでした。
 あれやこれやとネットで調べて、私としては結構、慎重に選んだつもりでしたが、住んでからのことは住んでみないとわからん、えいっ! と家を購入して移住したのは、思えばなかなかのギャンブルだったのかもしれません。今のところ賭けには勝っているはず、あぶな。
 
 今さらではありますが、市役所の人に霧島がどんな町なのか聞いてみたくなりました。移住者が増えてきている理由も。
 今まで、何度か街づくりに携わる人々や市町村の方にインタビューをしたことがあります。その人達は、現状の課題に対して大きな目標を掲げ、地道に取り組んだ結果、それが軌道に乗りつつあることで全国的にも有名でした。
 そことはまた違って、自分が住んでいるという理由の、ある意味一般的な市の人へのインタビューというのは、ほぼ経験がありません。でも、自分の今後の生活を考えれば、それはとても大切なことのように思えました。

 企画書を作って堅苦しくオファーするよりも、事前に直接行って話をしてから正式に申し込んだほうがスムーズな気がして、近くを通ったときに再び地域政策課を訪れました。
 残念ながら担当の方は不在でしたが、事情を説明して名刺を渡すと、女性の方が「連絡先は一緒なので」と霧島神宮の写真が入った名刺をくれました。
 家に戻ってメールを送ると、すぐに担当の方から快諾の返事がもらえました。話が早い、素晴らしい。早速、数日後にアポイントを取り付け、お気に入りの音楽をかけながら再び市の中心部へと車を走らせました。

 時間通りに訪れると、グループ長の貴島俊一さんと、メールをくれた松元聖哉さんが待っていました。ふたりは、まるで親子のような雰囲気です。貴島さんはちょっぴり神妙な顔をしていて、最初、頑固タイプの人なのかなあと危惧しましたが、松元さんが「グループ長、いつもと雰囲気が違う。緊張してるんじゃないですか?」と気軽に声を掛けたことで、今日は大丈夫だとホッとしました。
 私はフリーランスということもあり、毎回打ち合わせをする企業が変わります。何百社もの企業と打ち合わせをしてきて、その企業の風通しを感じてきました。
 何人も並んでいるのに、一切部下は発言せず、ただ上司が指示を与えるためだけに存在する場合もあれば、部下を前に出して気になったときだけ上司が口を挟む場合もあれば、部下が気を遣いつつもどちらが上司でどちらが部下かわからないほど対等な関係を築いている場合も。ふたりは、恐らく3番目。

 会議室に通されて名刺交換をすると、貴島さんの名刺には高千穂峰、松元さんの名刺には霧島産の食材が並ぶ食卓の写真が印刷されていました。
 貴島さんが「松元くんが答えるので、僕は隣に座っているだけです」というと、松元さんが「いやいや、おしゃべり好きじゃないですか」と返し、明るいムードが漂います。実は貴島さんが同じ地域に住んでいることなど、雑談を交わしてからインタビューが始まりました。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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