よみタイ

温泉、食べ物、住まい……都会人が知らない贅沢

43歳になった今こそ、子どもの頃できなかった経験を

 東京と行き来をする中で、初めて自治会の仕事がやってきました。1回目は婦人会で行うゴミステーションの掃除、ほどなくして燃えないゴミの日の当番が回ってきました。やっとまともに自治会の人たちと顔を合わせることができます。
 霜の下りる畑を横目にゴミステーションに向かうと、既に数名の女性陣が箒を握って忙しなく動き回っていました。あまり役に立ちそうもありませんでしたが、参加させてもらって、ある程度片付いたあと、自治会の班長さんから新しいメンバーとして紹介してもらいました。
 婦人会の総会の話など知らない話が進行するなか、まごまごしていると、ひとりの女性が話しかけてくれました。近くで自然農をやっている方で、自身も移住してきた経験からか気を遣ってくれることに嬉しく思いました。最後に皆さんにご挨拶をして帰ろうとすると、背後から「良さそうな人じゃない」と声が聞こえてほっとしました。

 燃えないゴミの日は月に1回。班ごとにひとりずつ当番が参加して、自治会長さんと合わせて6名が集まりました。次々に訪れる人たちからゴミを預かって、細かく分別していきます。本来、こんなに人数は必要ないかもしれませんが、それをわざわざ効率化する必要もない気がしました。ここでは顔を合わせることが大切に思います。
 当番のひとりは高校生。若者をこの辺りでは初めて見たような気がします。真面目そうな男の子で、そこにいた人たちみんなの息子のような雰囲気です。熊本県の企業に就職が決まったそうで、途中で学校のため先に帰っていきました。
 その姿を見て、ひとりのおばさんが「いい子はみんないなくなる」と寂しそうにつぶやいたのが印象的でした。
 終了時間が来て、改めて会長さんが私を紹介してくれます。ここでも方言を使えないのが悔やまれます。おばさんが、自己紹介のように物産館にお惣菜を出している話を始めました。あ、この人が〇〇ちゃんだ! 私が煮しめや鶏の甘辛煮をしょっちゅう買っていることを伝えると、嬉しそうに「今度、持ってってあげる!」と言ってくれました。
 
 子どもの頃、町内会では子ども会というものが存在して、お祭りなどに一部の子どもたちが駆り出されていました。理由はわかりませんが、私はまったくその手のものに参加したことがありませんでした。そもそも加入していたかどうかも不明です。
 4年生から塾に通い、中学からは地元で遊ぶこともなくなり、地域の付き合いはかなり希薄だったように思います。すべてが初めての経験。都会で学んだ生きる術は、ここではまるで役に立ちません。
 この歳にして新しい経験ができるのは、子どもに戻った気分でなんだかとても刺激的です。今後、地域とのかかわりが広がっていったとき、新たな問題も出てくるかもしれませんが、今はこの感覚を楽しんでみたいと思いました。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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