よみタイ

温泉、食べ物、住まい……都会人が知らない贅沢

リスク回避の移住であって、のんびり生きたいわけじゃない

 民生委員さんの協力もあって、畑の雑草を処理してもらい、耕運機で耕してもらい、おんぶにだっこでいよいよ畑づくりが始まりました。
 野菜の苗は、園芸店だけでなく、件の物産館やホームセンター、無人販売所にも売っています。それにしても、いまだにクレジットカードすら使えないお店がある一方で、無人販売所にペイペイのQRコードが貼られていたときは驚きました。
 自分が食べる分だけを作ると思うと、ひとつの野菜をたくさん植えるより、いろいろな種類を少しずつ植えた方が良さそうです。
 何しろど素人もど素人。失敗してもご愛敬と、たくさんの苗と苗木を購入しました。白菜、大根、春菊、キャベツ、ゴボウ、ブロッコリー、にんにく、玉ねぎ、ルッコラ、ベビーリーフ、苺……。ポポーとチェリモヤという謎の果樹も植えてみました。

 それにしても生産者は強い。日本の自給率の低さは以前から言われていることで、国際問題など何らかの形で輸入がストップしたら目も当てられない状況です。お金があっても「あげないよ」と言われたらおしまい。未来のことなんて誰もわからないわけで、住まいと食料を確保しておくに越したことはありません。
 一方で、農業の就労者はどんどん減っているのが現状です。この10年間で約100万人も減少している現実に、危機感を覚えずにはいられません。
 のんびり生きたいがための移住ではなく、独り者の私なりのリスクマネジメント。耕すべし! 耕すべし!

 家から車で20分ほどの場所には牧場もあります。メイちゃんと訪れてみると、売店では牛乳やチーズ、生ハムなどが売られていました。さすがに畜産は無理だけど、生産地が近所にあるのは心強いものです。
 いずれ野菜が育ったら、朝摘みの野菜にここのチーズと生ハムを添えて食すなんて贅沢もできそうです。
 そう、贅沢。お金がかかることが贅沢というより、その行為自体が贅沢。毎日温泉に入れる贅沢、毎日採りたての野菜が食べられる贅沢、水道水をがぶがぶ飲める贅沢、広々とした部屋に住める贅沢。東京で生まれ育ち、お金をかける贅沢しか知らなかった私が知った価値観は、人間が生きていくための基本のような気がします。
 私が移住したと言うと、多くの人から「いいなあ」と羨ましがられます。のんびりできると勘違いしている人も多いように思いますが、都会で生活を送る上で、何かはわからないけれど、何かがおかしいと感じる人が増えているのかもしれません。
 とはいえ、過去の私がそうだったように、お金を価値と考えてる人も増えているようです。東京の変容は、たぶん東京で生まれ育ったからこそわかること。
 ご近所さんに「静かでいいところでしょう?」と聞かれると、今では心の底から「本当に来てよかったです」と言える自分がいます。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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