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鹿児島―東京3往復。かさむ交通費、されど豊か

目まぐるしく東京/鹿児島モードをシフトチェンジ

 まだ目黒のマンションはそのままにしてありましたが、約2週間ぶりに訪れた我が家は、鹿児島の家とは比べ物にならないけれど、ものが無くなってだだっ広く見えました。残しているのはベッドとローテーブル、大きなクッションとちょっとした日用品だけ。そして、もう既に冷蔵庫も洗濯機も電子レンジもないので、ここに滞在するならコインランドリーを利用しなければならないし、ほぼ外食になります。
 しかも、ランプシェードをすべて鹿児島に持っていってしまったため、埋め込み型のライトと簡易的なライトがあるだけ。うーん、これはさすがに居心地が悪い。
 そして、現状はこのマンションと鹿児島の一軒家の二重ローンを抱えているわけで、とっとと人に貸さないと出費はかさむばかりです。粗大ごみを処分して、ハウスクリーニングを入れて、不動産屋さんに相談せねば。
 マンションを人に貸したら、東京にいる間は兄の家に泊めてもらうことになっていました。この確約がなければ、移住のハードルは上がっていたと思います。ありがたやありがたや。この歳になって久しぶりに兄妹一緒に暮らす感覚を味わうのも面白い気がしました。

 東京での日々は目まぐるしく過ぎていきました。打ち合わせに撮影に原稿に、私が移住したと聞いて連絡をくれた友達とご飯にと、あっちへ行きこっちへ行き。髪だけは知っている人に切ってもらいたいし、気になっていた美術展にも足を運びたい。そこに何かがある分、欲も高まります。限られた時間にスケジュールを詰め込んでいることもありますが、みるみるうちに都会のスピードへと引きずり込まれていきました。
 そうそう、東京はこの感覚だった。便利でスムーズで速くて、昼間のBPMは125くらい。気づけば、工事中だったマンション近くのパン屋さんが完成していて、よく足を運んでいた喫茶店が無くなっていました。キックボードで公道を走る人をよく見かけるようになって、20歳の頃から通っていた渋谷のダイナーのハンバーグは、経営者が変わって量が減って価格が上がっていました。

 すっかり体が東京仕様に仕上がったところで、鹿児島に戻る日がやってきました。
 そして4日間、鹿児島に滞在して、また東京に行って1週間。3日間、鹿児島に滞在して、東京に行って5日間。序盤戦の怒涛の3往復を終えて、やっと鹿児島に3週間いられる日々が訪れました。絶対に鹿児島にコロナを持ち込むわけにはいかないので、往復するたびにPCR検査を受けるため、出費もさらに嵩みます。
 移住したとて、何かが楽になるわけではない。それでも、移住してよかったという気持ちには変わりはない。でも、なんだかこの状況を誰かと分かち合いたいと思いました。同じような状況にある人に、移住してきたことは間違ってないよね? と確認したいというか。
 縁もゆかりもないこの場所で、東京の仕事をしていて、鹿児島にいない時が多く、しかも子どももいない。よくよく考えてみると、私は地域に溶け込みにくい状況におかれています。仕事のことも含め、今後の展開はわかりませんが、私と同じような状況の移住者に話を聞いてみたくなりました。

……あ、弦さん! 私より半年前に鹿児島に移住してきて、東京と5往復することもあると言っていたカメラマンです。同じ業界にいて、仕事の状況もわかる、インタビューにうってつけの相手がいました。先日、偶然東京の仕事で一緒になりましたが、鹿児島では私が家を買う前日に、ご家族と一緒にご飯を食べて以来。インタビュー兼鹿児島での再会を祝うために早速アポイントを取ることにしました。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

齋藤弦

1978年生まれ、京都府出身。フォトグラファー。成安造形大学卒業後、フォトグラファーとして関西を中心に活動する。2006年にロンドンに渡り、帰国後、東京をベースとして活動を開始。広告や雑誌を中心に、モードからカルチャーまで幅広く活躍中。数々の著名アーティストのポートレートも手掛け、業界から高い信頼を寄せられている。

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