よみタイ

藤原綾「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」

東京のマンションから鹿児島の平屋へ、1000kmの大移動

国際社会とグローバル社会は似て非なるもの

 東京に戻ってきてからも病は続いていたので、忙殺される日々が目まぐるしく過ぎていきました。その間もリフォームは着々と進み、畑の雑草はぐんぐんと伸びていきます。
 気づくと引越し業社に依頼する時期が迫っていました。
 今回は鹿児島の業者にお願いするわけにもいかないので、友人の話やネットでの口コミを頼りに、引越し会社にそれぞれ連絡を取ってアポイントを取り付けました。まとめて見積もる業社に中抜きさせず、引越し会社に直接金を落とすのだ。

 一社目は、大手の引越し会社で、営業の方は中国人の男性でした。家に入る前にソックスの上からビニール袋をかぶせ、こちらが声を掛けるまで座ろうともせず、敬語やビジネス用語もマスターした完璧な日本語を流暢に話します。
 足を崩してくださいと言っても崩すことなく、真摯にひとつひとつの費用について話してくれました。私が相見積もりを取ろうとしていることは端からわかっているようで、他社の状況を聞かれ、3社すべての見積もりが終わった時点で連絡を入れさせてくださいとのこと。出したお茶には一切手を付けなかったものの、帰る時になってそれを一気に飲み干しました。侍か!

 続いてやってきたのも大手の引越し会社。若い男性で、どちらかというとフランクな雰囲気です。ホームページからの申し込みということで、なぜか2kgのお米をもらいました。こちらはソックスそのままで、早々に「足を崩してもいいですか?」と一言。これが一社目ならそんなことで何とも思わないのに、侍が基準となってしまった後では少し物足りなく感じます。人間とは欲張りな生き物です。
 別に彼が引っ越し作業を行うわけでなし、そこで比較しても仕方ないと話を聞いてみると、最初に金額を提示されて、こちらが何も言わないうちに値引きした金額を提示されました。一社目の金額を聞かれたものの、それには答えないでいると、上司に電話をし始めて談笑したかと思ったら、また急に金額が落ちました。
 金額が下がっていくたびに、誰かに皺寄せがいっているように思えて、あまり気分はよくありません。あるいは元々このくらいの金額なのに、わざと最初に吊り上げて提案しているのか。まあ、そりゃそうなんだろうけど、いずれにせよ、いまいち信用がおけませんでした。

 最後にやってきたのは、中小の引っ越し業者で、テンションは侍とフランク青年の中間くらい。彼から話を聞いてわかったのですが、東京―鹿児島間になると基本的には大手の引越し業者しか受けていないそうで、支店がない企業は、地元の別企業と協力しながら荷物を運ぶとのこと。
 途中で別の人の荷物を乗せたり、別の車に詰め替える作業を行ったりと、工夫しながら運ぶなかで、荷物の入れ違いなどのリスクも生じるそうで、わざわざこの業者にお願いしなくてもいい気がしました。
 そして、リスクについて説明してくれたのは好印象でしたが、途中から別の企業の軽い悪口を挟み始め、金額は最初の侍の提示金額よりも高くなりました。

 話を聞いてわかったのは、鹿児島への引越しは中1日必要だということ。引っ越し代金は30万円弱。すっかり鹿児島との距離が縮まった気でいましたが、現実はやはり1000km離れた僻遠の地なのでした。
 大きくかけ離れているわけではない3社の提示金額や条件を見比べていると、1社目の侍から連絡が入りました。対応が早い。2社目の金額を聞いて、荷物量の読みが甘いのではないかと訝しながら一度電話を切り、次の電話で2社目よりほんの少し低い金額を提示されました。
 この金額を他社に見せて、さらに値切ることもしたくなく、結局その日に残りの2社からは連絡がなかったので、翌日1社目の侍に連絡を入れてお願いすることにしました。

 同時に近所のラーメン屋さんでの出来事を思い出しました。
 ふたりの日本人と、ひとりの恐らくインド人が働くラーメン屋で、日本人同士がぺちゃくちゃと喋って手を動かさないなか、インド人従業員はひとりテキパキと作業を進め、黙々と動き回っていました。
 最近は中国企業の案件もやってきます。東京で撮影したいと言われて、そのコーディネートをしたとき、フォトグラファーもスタイリストも「東京っぽい雰囲気が出したいんだろうね」と言っていましたが、その実は東京で撮影した方が予算を抑えられるからなのでした。
 別の中国ブランドとの打ち合わせでは、「日本で生産しても構わないから質をあげたい」と言われました。日本では予算をいかにおさえるかという話が蔓延り、日本の技術者やクリエイターが海外へと流出するなか、海外からは日本で商売しようと画策するグローバル企業が次から次へとやってきます。

 グローバル化って、こういうことなんだよな。
 国際化とグローバル化を一緒くたにして考えている人が多いような気がします。独自の文化に花を咲かせ、その上で他国と交流を深めるのが国際化ですが、グローバル化は単純に世界で商売がしやすくなるという話であって、むしろ独自の文化が消えていく傾向にあります。ちょっとした機微や心の変化にも、それを的確に表現できる言葉が存在する日本語を素晴らしいと思っているのですが、世間では国語教育そっちのけで英語教育が推進されて、切ないものを感じずにはいられません。
 ここは日本で、多くの人が日本で生まれ、日本で暮らし、日本で死んでいくというのに、“誰”に合わせた社会に向かっているのでしょう。
 その価値観で習った古文は、レ点のことは教えてくれても、書いてある深い内容について教えてはくれませんでした。

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藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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