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藤原綾「女フリーランス・バツイチ・子なし 42歳からのシングル移住」

仕事、生活費、災害対策……移住の前に考えなければならないこと ——経済アナリスト・森永卓郎さんに聞く

都心で高い家賃を払って住み続けていることは、本当に幸せ?

――今、少しずつ千葉、埼玉、神奈川あたりに移住する人が増えているかと思いますが、今後、コロナが収束していった時、どうなっていくと予想されていますか?

「田舎への移動はまだ増えていないのですが、今は第一段階だと思っています。千葉、埼玉、神奈川に対しては転出が増えていますが、地方についていえば、まだ東京に来る人の方が多いんです。なんでみんなが周辺3県に逃げ出しているかというと、リモートワークでも週1回くらいは通わないといけない人が圧倒的に多くて、その人たちにはその辺が限界なんですね。でも、トカイナカの最大のデメリットは土地が高いということなんです。私が住んでいるところでも、1坪50〜60万はします。もちろん、東京は300万するんですけどね。でも、田舎に行ったら坪1万とか5000円とか桁違いに安くなるので、そういう意味ではトカイナカの住宅コストはすごく高いし、畑も買ったらそれなりにします。だから、多くの人が完全にリモートで仕事ができるようになれば、田舎の方が断然いいですよね」

――コロナが収束した時、またリモートワークが減っていく可能性は無いのでしょうか?

「少し反動は出ると思いますが、仕事がどんどんIT化していくので、中長期的には増えていくと思います。例えば、製造現場で実際に手を動かしてモノを作る仕事は、今までなら工場に行かなければならなかったけど、これからはプログラムを作ったり、新しいアートを作ったり、そういう仕事がメインになってくる。そうすると別に大都市で暮らす必要もなくなりますよね」

――一極集中の流れは頭打ちということですか?

「そうなっていくと私は思っています。そこに最後の鉄槌を下すのが、首都直下地震か荒川決壊になるんじゃないでしょうか。やっぱり大きなショックが加わらないと、一気に変わることはないんです。ただ、都心でずっと家賃を払い続けてつまらない仕事をしている人たちの中で、あれ? これはおかしいぞっていう意識は確実に育ってきていますね」

――「確実に」というのは、具体的にはどういうところで感じますか?

「私くらいの年齢になると、高齢層でも都心にこだわる人って結構いるんですよ。そういう人たちが何をするかというと、ものすごく小さなワンルームマンションに引っ越して、結局狭いから断捨離し始めるんですね。楽しみはスマホの中にしかない。たまの運動は近所を散歩するだけ。それに比べて、地方の高齢者はすごく元気なんですよね。人生を楽しんでいるというか。多分、そこに薄々気づき始めた人が出てきたんだと思います。ふるさと回帰支援センターの相談件数も爆発的に増えているんですよ」

――その意識の変化の原因はなんだと思いますか?

「私が社会に出た頃は、仕事をしていても楽しかったんですよ。課長になったら新聞を読んでいて、それより上の人間は重役出勤で仕事もしなかったから、ボトムアップで全部現場で決めることができたんです。自由にできる仕事って、やっぱり楽しいんですよね。でも、今はトップダウン型に変わってしまったので、『お前ら、これをやれ』ってノルマだけ与えられて、やり方も全部指示されてしまう。これじゃ仕事が楽しくなるはずがないんです」

――トップダウン方式になってしまったのは、やっぱり株主至上主義みたいなものがもたらした弊害なのでしょうか?

「そうです。今は何が起こっているかというと、昔は持ち合いだったから株主の力が強くなかったんですけど、今は物言う株主が増えてきて、その人たちが利益を上げろと経営陣にプレッシャーをかけるわけですよ。昔は大体年に一度、年度末にある程度の数字を見せればよかったのに、今は四半期ごとに出せと言われて、追い詰められた経営陣が現場に対して何を言うかっていうと、今日稼げ、今稼げっていうことなんですね。中長期的に会社を発展させようなんて誰も考えなくなっちゃって、言われた目標をいかに達成するかということばかりになってしまったんです。しかも、経営陣になる人って、せいぜい数年しかいないんですよ。5年先、10年先に会社がどうなろうと知ったこっちゃないんです」

――“プロ社長”も増えていると聞きます。

「そうなると、もう資本主義の奴隷みたいになっちゃうんですよね。だから、そこから一旦離れて、人間性を回復することができれば、自ずと楽しくなっていくと思います。先日、学生に『何をしている時が一番楽しいの?』って聞いたら『学校が休みで布団の中で一日中スマホをいじってる時が一番幸せだ』と言われて、すごくショックでした。そこに彼らなりのお花畑を作るのも仕方がないかもしれませんが、ただ彼らには、そこから一歩抜け出してみると、もっと豊かなお花畑があるんだよと伝えています。実際、それに気づいて、夏休みに群馬の畑に行って農業をする学生もいるんですよ。まだ全体の1割にも満たないのですが、就職するときに大都市ではなく田舎を選ぶ子も出てきてはいます」

――それは、今まではなかった現象ですか?

「私が大学で教え始めたのが17年前なのですが、その時はそんな人は全くいませんでしたね。一部の人が気づき始めたんだと思います。大金を得ることが成功の証だ、お金は無限に欲しいんだって思っているグループの方がまだ大きくて、そのグループは徹底的に資本主義でいこうとするんですね。いつか勝ち上がって、プライベートジェットに乗って、タワマンのペントハウスで地べたを這いつくばる庶民を見下してやるんだっていう発想の人がまだ多いんですけど、『そんなこと、全然面白くないよね』と気づき始めた人が出てきたという段階だと思います」

――今後は変わっていくと期待していいのでしょうか?

「変わっていくと思いますよ。だって、彼らを見ていると可哀想なんですもん。個人的に周りを観察すると、トカイナカや田舎の人たちは結構ハッピーで、辛くて暗くなっているのは都心部の住民のように私には見えます。だから、若い人は思いきってやればいいと思いますよ。だって、失敗したら戻ればいいだけの話ですから」

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森永卓郎

1957年生まれ。東京都出身。東京大学経済学部経済学科卒業後、日本専売公社、日本経済研究センター、経済企画庁総合計画局、三和総合研究所(現 三菱UFJリサーチ&コンサルティング)主席研究員等を経て、現在は獨協大学経済学部教授を務める。経済アナリストとして各種メディアで活躍するほか、バラエティ番組などにも登場し、お茶の間でも人気を博している。格差社会の弊害をいち早く指摘し、ワーキングプアの問題にも早くから警鐘を鳴らして注目を集めた。近著に、『森永卓郎の「マイクロ農業」のすすめ: 都会を飛びだし、「自産自消」で豊かに暮らす』、『相続地獄~残った家族が困らない終活入門~』などがある。

藤原綾

1978年東京生まれ。編集者・ライター。早稲田大学政治経済学部卒業後、某大手生命保険会社に就職するも、大企業の闇に触れて逃げるように宝島社に転職。ファッション誌の編集を経て2007年に独立し、ファッション、美容、ライフスタイル、アウトドア、文芸、ノンフィクション、写真集、機関紙……と、節操なく仕事を受けてきた結果、幅広い業界で編集・執筆活動を行うことに。近年もブランドムック『ANNA SUI COLLECTION BOOK』、雑誌『小学一年生』、漫画『ごろごろにゃんすけ』(村里つむぎ)、書籍『つくるひとびと』(秋山竜次/ロバート)、小説『海の怪』(鈴木光司)、カタログ『LAZY SUSAN』など、極端なノンジャンルで活動中。

インスタグラム @id_aya

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