2024.3.10
つらくて苦しい胃カメラ検査を乗り切るためのたったひとつの冴えたやり方
前回は美容の先輩でもあり、恩人でもある漫画家のまんきつさんの新刊を読んで、改めて彼女との出会いを振り返りました。
今回は、健康診断の結果を経て、胃カメラ検査が必要になった著者。人生はじめての胃カメラ体験を綴ります。
(イラスト/山田参助)
第40回 僕とピロリ菌の七日間戦争
「ピロリ菌の検査を受けてくれないのなら、あなたと別れます。私は本気です」
ある朝目覚めると、枕元にそんなメモが残されていた。同棲中の恋人からの最終通告である。LINEやメールではなく、大事なことはきちんと手書きの文字で伝えるというのが、いかにも実直な彼女らしいというかなんというか。
事の発端は、先日郵送されてきた健康診断の結果書類だった。「太り気味です」「高血圧を改善しましょう」といった予想通りの注意事項に加え、「ピロリ菌感染を疑います」という見慣れない所見がそこには記されていた。
「ねえねえ、ピロリ菌ってのに引っかかっちゃったよ~」と恋人に呑気なご報告。
「やっぱり! 私、前から何度も言ってたよね? あなたの胃腸の弱さは絶対ピロリ菌が原因だって! もういい……私の言ってること……なんにも聞いてないんじゃん」
はて、そうでしたっけと、なおも惚ける私に、彼女の堪忍袋の緒はプッツンと切れてしまったわけである。
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ピロリ菌。語感はやけに可愛いが、ピロリ菌とはいったい何ぞや。“菌”と言われたら乳酸菌とバイ菌ぐらいしか思いつかない無知な私は早速リサーチを開始する。
ピロリ菌とは、人間の胃に生息し、胃酸を弱め粘膜を退化させる働きを持つ細菌である。胃潰瘍や胃ガンを引き起こす原因とされ、こと胃ガンに関しては、発症例の90パーセント以上がピロリ菌の仕業なのだという。
感染者のほとんどが幼少期に罹るらしく、その経路は主に経口感染、とくに井戸水からの感染が非常に多いとのこと。なるほど、私の実家は生活用水のほとんどを井戸水でまかなっていたので、小さい頃に感染していた可能性は非常に高い。
わかってはいたことだが、やはりガンは怖い。すぐにでも検査に行こうと病院を調べてみたら、保険診療を受けるためには胃カメラ検査が必須とされているではないか。
困った。実は私、一度も胃カメラをやったことがない。採血も苦手なら、閉所恐怖症なのでMRIもダメ。そんな私が、口からカメラをぶち込まれるなんて蛮行を耐えられるわけがない。ヤダ、無理、怖い、信じられない、ケダモノ、変態、胃カメラなんて大嫌い。
「というわけで今回は経過観察にしとこうかな……」とお茶を濁したところ、愛する彼女が家を出て行ってしまった。なんだよ畜生、誰だって苦手なことのひとつやふたつぐらいあんだろうが! と憤慨しつつも、いつでも一番に私のことを心配してくれる彼女の深い愛情に報いるため、なけなしの勇気を振り絞り強大な敵に立ち向かうことにした。
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技術の進歩により、最近の胃カメラ検査は、それほど苦痛を伴うものではないらしい。検査機器も驚くほどに小型化され、事前に鎮静剤を投与してもらえば、ウトウト寝ている間にお~しまい! という具合だという。
検査の一部始終をノーカットで録画したものを、YouTubeで何本も確認する。うん、これなら何とかなりそうだ。
勢いに任せて近場の病院にテイクオフ。採血に問診と、事前検診を滞りなく済ませ、胃カメラ検査の日を予約する。よしよし、これは意外と楽勝だなと、「胃カメラ終わったら美味しいメシでも食べに行こうよ」と、我が家に戻ってきたばかりの彼女に余裕を見せつける私であった。
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前日の夜から食事を控え、胃の中を空っぽにして検査当日を迎えた。こじんまりとした控え室にて、まずは消泡剤を飲んで胃の内部を綺麗にする。次に移動式の診察台に横になっての血圧測定、続けて鎮静剤の準備と進む。
ところがここでトラブル発生。私の前に検査を行った中年男性が、死人のような真っ青な顔で運ばれてきたのである。
「あの……鎮静剤ってあんな感じになるんですか?」と看護師さんに確認を取る。
「まあ、個人差ありますからね。それほど心配することではないですよ」
やばい。
先ほどまで白衣の天使だったはずの看護師たちが、怪しいセミナーの勧誘員に見えてきた。こいつらを本当に信用してもいいものか。よもや、投与量を間違えて眠ったままあの世行きってことはないだろうな。
「すみません。やっぱり鎮静剤いらないです」
「え? 必要ない?」
「どうせなら自分の胃の中を自分の目で見たいと思いまして……」
「はいはい、それは確かにそうですね。じゃあ、鎮静剤はキャンセルで」
もっともな理由を並べて鎮静剤を回避成功。しかし、ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、「じゃあカメラは鼻から入れますか? 口から入れますか?」との二択を迫られる。
口から入れるよりは負担が少ないのではないかと考え、今回は「鼻からIN」を選択する。
鼻の穴からゼリー状の薬をねちょりと流し込まれ、喉には専用スプレーをシュッシュと振りかけられて、麻酔は完了。診察台に横向きに寝そべったまま検査室へと運ばれていく。
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