よみタイ

私の人生の全てはこのベランダに繋がっていたに違いない

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 何事も形から入るタイプの私は、まずは洗濯用品の類を一切合切買い替えることにした。何はともあれ洗剤からだと、近所のドラッグストアへと。
 普段はめったに行かない洗濯用品コーナー。昨今流行りの液体洗剤や色鮮やかなジェルボールが所狭しと陳列された眩しい光景を目にすると、おもちゃ屋さんに来たときと同じような胸の高鳴りを覚える。私が知らなかっただけで、世界にはこんなにもたくさんの魅力的な洗剤があったんだな。目移りしちゃうぜ。
 初めて化粧品コーナーに足を踏み入れたときにも思ったことだが、ドラッグストアって実はとんでもなく楽しい場所なのかもしれない。

 熟考の末、青、白、緑の綺麗な色合いのジェルボールを購入。歯磨き粉でいえばアクアフレッシュ的な色合いに私はめっぽう弱い。しかし、ジェルボールの見た目は勾玉というか、いかにも魔法の道具という感じがして格好良い。これから向こう十年はジェルボールを使うことにしよう。

 そして、ついに柔軟剤へと手を伸ばす。恥ずかしながら、柔軟剤を買うのは、これが生まれて初めてである。柔軟剤とは私の人生には必要のないものであり、柔軟剤を使って洗濯をするのは軟弱者がすること、もしくは金持ちの道楽であるという偏見を持って生きてきた。そんな私が、洗濯物がいい匂いをする、フンワリするという魅力に負けて、柔軟剤を買うときがやってきたのだ。

 三ツ星ホテルのタオルと同じ匂いがするとか、べらぼうに高い外国製のものなど、洗剤のときと同じく、種類が多過ぎてどれを選んでいいのか皆目見当もつかない。
 そうだ、困ったときに頼れるもの。それがスタンダードなものの魅力じゃないか。
 そこで私は、愛らしいクマのマスコットキャラクターで有名な「ファーファ」を買い物かごにぶち込んだ。なんだかんだいって、私は可愛いクマちゃんが大好きだ。

 そんなこんなで、なんとか洗剤と柔軟剤を購入することができた。ああ、しかし楽しいひとときだった。ブックオフで中古CDを漁っているときと同じぐらい楽しかった。

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。21年2月から『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『働きアリに花束を』(扶桑社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)とデビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に。
最新エッセイ『きょうも延長ナリ』(扶桑社)発売中!

公式ツイッター@tsumekiriman
(撮影/江森丈晃)

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