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その数9回! “情熱の薔薇”のついた自転車で選挙に出続ける「ホームレス路上演奏家」

こちらは2019年。2017年の都議選と同じ小学校の個人演説会でピアノ演奏をする武田候補。(撮影/畠山理仁)
こちらは2019年。2017年の都議選と同じ小学校の個人演説会でピアノ演奏をする武田候補。(撮影/畠山理仁)

仙人のような強い生命力を表す自宅のぶどうの木

 武田は避難所が開設されるような大型台風の日も避難所に行かず、ブルーシートをかぶせたリアカーの下で楽譜を抱えて眠っていた。
 なぜ、そこまでして選挙に出るのか。

「浅草橋にある、台東区の土地に共同開発されたビルは区の活性化になっていない。区有地は50年後に返還されるというが、街に賑わいは生まれていない。50年後、この計画に反対していた人間がいたということを後世に残したい。私は生きている。ここにいる。こういう主義主張をお知らせするために選挙に出たわけであります」

 若い頃は銀座のキャバレーでバンドマンをやっていたという。客のリクエストに応じて、歌謡曲などをキーボードで弾いていた。時代とともにキャバレーが賑わいを失うと、映画のエキストラ、自動車工場の期間工などを転々とし、路上での演奏活動を始めた。キーボードだけでなく、アルトサックスも奏でる。自分が選挙に出るだけではなく、鳩山邦夫や菅直人の選挙も手伝った。なんでもやるのが武田の特徴だった。

 そもそも私が武田に興味を持ったのは、2017年7月。東京都議会議員選挙のポスター掲示板(台東区)で、仙人のようなヒゲを蓄えた武田の顔写真を見つけたからだ。
 白黒のポスターは数種類あり、手書きで熱い政策が書き込まれていた。すべてのポスターを本人が一人で貼っている香りがした。
 不思議なパワーに圧倒された私は、選挙管理委員会に届けられた武田の自宅を訪ねた。当時の武田はホームレスではなかった。

 初めて訪ねた武田の自宅兼選挙事務所は、東京23区とは思えないほどの植物に覆われていた。家全体を包みこむように、グレープフルーツやぶどうの木が絡みついていた。
 一階の壁には、クリスマスツリーに飾る赤いイルミネーションが点滅している。玄関には選挙事務所の看板。上を見ると、2階のベランダには季節外れの鯉のぼりと街頭演説のための標記がぶら下がっていた。
 玄関から室内を覗き込むと、荷物が山積みになっているのが見えた。足の踏み場はなさそうだ。入り口にぶら下がるカウベルを「コン」と鳴らすと、奥の方から「ちょっと待って下さいね」という声が聞こえた。

 待つこと数分。都会に突如出現したジャングルの奥地から、仙人のような風貌の武田がおしゃれな麦わら帽子をかぶって現れた。
 選挙の取材に行ったはずだった。しかし、私の口をついて出たのは、「家の周りに生えている木はなんですか」という問いだった。

「果物を食べたあとに自然と植物の芽が出てきて大きくなったんです。これはぶどう」

 強い生命力。そんな言葉が脳裏に浮かんだ。

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畠山理仁

はたけやま・みちよし●フリーランスライター。1973年生まれ。愛知県出身。早稲田大学第一文学部在学中の93年より、雑誌を中心に取材、執筆活動を開始。主に、選挙と政治家を取材。『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』で、第15回開高健ノンフィクション賞を受賞(集英社より刊行)。その他、『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)などの著書がある。
公式ツイッターは@hatakezo

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