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村井理子「犬と本とごはんがあれば 湖畔の読書時間」

義両親と過ごす修行を経て戻った大好きな正月ー三が日の過ごし方の変遷に思うのは

 子どもたちが生まれて、夫の実家から車で30分程度の場所に家を建ててからは、夫の両親が私たちの家で正月三が日を過ごすという私にとっては真冬の滝行のような正月がはじまった。それが10年ほど続き、苦しみを乗り越え、達観したあたりで、もう一度大きな変化が起きる。きっかけになったのは夫の両親の老いだった。場所が変わると途端に混乱する認知症の義母には、わが家での宿泊が大きな不安要素となった。脳梗塞で倒れた義父にとって、わが家の構造は移動が難しい。そんなこんなで、夫の両親はわが家での宿泊を諦めた。ここ数年は、私たちが大晦日に数時間実家に両親を訪問するだけという正月になった。

 今となっては、正月が楽しくて仕方がない(申し訳ない)。全国各地から取り寄せておいた美味しい食材をちびちびと食べながら、勝手気ままな時間を過ごすのが私の正月であり、家族の正月になった。ほんの少しの罪悪感は、10年ほど続いた修行の正月を思い出せば吹き飛んでいく。あの10年の奉公が今の私のきらきらと輝く正月をもたらしてくれたのだと思えば、腹のそこから喜びが沸いてくる(ごめんなさい)。ダメだ、そんなことを考えてはいけないと反省しつつも、人間、やっぱり無理しちゃいけないよな~などと思う。

 しかし今年は、正月の2日になって、わが家の電話がひっきりなしに鳴るようになってきた。義母が実家に届き続ける年賀状に混乱し、親戚に電話をかけまくっていると言う義父は、今にも泣きそうである。次はいつ来るのかと聞かれるたびに、受話器がズシリと重く感じられる。行かなきゃ行かないでめんどくさいなあ、まったく……と思うのだが、一方で、成長し、家を出た息子たちが「面倒くさいから正月は帰らない」と言ったら私はどう思うのだろうと、ふと考えてもみる。そう考えてみると、心に暗雲が立ちこめる気配がする。因果は巡る糸車なのだろうか。なんて恐ろしいことだ。

 そう考えつつ読んだのは、グラハム子『美淑女戦隊 オバサンジャー 困った姑・夫を浄化する!』だ。悩める主婦を助けるオバサンジャーの大活躍に笑えるのだが、登場する困った人たちのエピソードが、ある程度現実味を帯びているのがすごい。こうやってコミックとして読むと確かに笑えるのだが、実際に起きると一切笑えないところに主婦の悩みが尽きない理由があるのではないか。私も山ほど経験したけれど、心に負った傷はなかなか癒えるものではなく、癒えるというよりは怨念化するとさえ思う。家族って本当に難しいものだ。

 因果は巡る糸車。もう一度読んで気を引き締めたい。

『美淑女戦隊 オバサンジャー 困った姑・夫を浄化する!』(グラハム子/2021年6月/KADOKAWA)
『美淑女戦隊 オバサンジャー 困った姑・夫を浄化する!』(グラハム子/2021年6月/KADOKAWA)

本連載は今回が最終回です。
ご愛読いただきありがとうございました。
書き下ろしを加え、6月に書籍として刊行の予定です。
どうぞお楽しみに!

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村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な連載に「村井さんちの生活」(新潮社「Webでも考える人」)、「犬(きみ)がいるから」(亜紀書房「あき地」)。主な著書に『兄の終い』『全員悪人』(CCCメディアハウス)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』『ハリー、大きな幸せ』『家族』(亜紀書房)、『村井さんちの生活』(新潮社)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)、『更年期障害だと思ってたら重病だった話』(中央公論新社)など。主な訳書に『サカナ・レッスン』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』など。

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