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40代とは違う50代の困難ー初老の本当の恐ろしさとは

実兄の孤独死をめぐる顚末を描いたロングセラー『兄の終い』のほか、翻訳書『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』、近刊『全員悪人』『ハリー、大きな幸せ』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』など、数多くの注目作を手掛ける翻訳家の村井さんが琵琶湖畔に暮らして十数年。 夫、10代の双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリー君と賑やかな毎日を送っています。 公私ともに古今東西の書籍にふれる村井さんは、日々何を読み、何を思い、どう暮らしているのでしょうか。 人気翻訳家によるエッセイ+読書案内。

 ここのところずっと、40代と50代の違いについて考えている。そこに目に見える形の線引きがあるわけでもないのに、なぜこうも違うのか!? なぜこうもはっきり「違う」と感じるのか!? と、焦っている。

 40代後半の私が50代の自分に起きることとして予測していたのは、体力の衰え、その一点だった。ざっくりとした、「加齢」のイメージだ。なんとなく疲れやすくなったり、食欲が落ちたり、顔色が悪くなったり……とまあ、その程度だった。先輩たちは40代後半の私に、「あなたもいまから筋トレしておいたほうがいいわよ、本当に体力なくなるから」とか、「50代は重力とのせめぎ合い」とか、色々とアドバイスをくれた。それもあって、ある程度の覚悟はしていた。唯一、「50代は女が一番働くことができる年代だから、大丈夫よぉぉ~!」と、大変エネルギッシュに私に言ってくれた方は、今でもバリバリ働いておられる(ちなみに書評家の東えりか氏)。

 私自身は40代の後半に人生のアップダウンが一気に押し寄せたため、あまり実感もないまま50代に入ってしまったわけだが、最近、生活が落ち着きはじめ、自分を見つめ直す時間を経て理解したことがある。それは、50代において問題となるのは、フィジカル面での衰えだけではなく、メンタル面の暴走なのではないかということだ。さらに怖いのは、暴走を抑制するはずの自我がどこかに行ってしまうということだ。体力が落ちるとか、しわが増えるなんて問題は、本当に些細なこと。少なくとも私にとっては些細なことだ。とかく50代は、予想していたより遙かに困難であるという事実に気づいてしまった私は、少し気分が落ち込んでいる。おっとここで「それは更年期障害では?」と、決めつけるのはやめていただきたい。

 確かに、いわゆる更年期障害と考えられる症状も、なきにしもあらずだ。先日は歯科医院の診察台に寝ていたら、突然顔に汗をかきはじめ、びっくりした医師が気の毒そうに「今日は夏みたいですもんね」と言ってくれ、申し訳なくなった。自分でも驚くほど突然暑くなったりするのって、やはり50代になってからだと思う。そんな細々とした症状(?)は結構ある。

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新刊紹介

村井理子

1970年、静岡県生まれ。翻訳家、エッセイスト。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な著書に『兄の終い』『全員悪人』『いらねえけどありがとう いつも何かに追われ、誰かのためにへとへとの私たちが救われる技術』『ハリー、大きな幸せ』『家族』『はやく一人になりたい!』『村井さんちの生活』 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』『ブッシュ妄言録』『更年期障害だと思ってたら重病だった話』『本を読んだら散歩に行こう』『ふたご母戦記』など。主な訳書に『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖』『エデュケーション』『捕食者 全米を震撼させた、待ち伏せする連続殺人鬼』『消えた冒険家』『射精責任』など。

X:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

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