2021.6.28
亡くなった兄が汚れたアパートで飼っていたもの―強い怒りは時を超えて
昔、わが家にサムという名の犬がいた。私は当時小学生で、サムはどこかからもらわれてきた柴犬の雑種だった。玄関に置かれた粗末な犬小屋で、首に鎖で繋がれて日がな一日座っていた。
最初は誰もが可愛がったサムも、かわいい子犬の頃を過ぎると、大人はあっという間に興味を失った。サムはよく吠える犬で、それは今になれば簡単に理由はわかるのだが(散歩が足りなかったという単純な理由だ)、当時、両親はサムが吠えるのを極端に嫌がった。私はサムが吠えるたびに怖くなった。いつかサムはどこかに捨てられる。誰かにもらわれて行ってしまう。どうにかしてサムを静かにさせなくてはと、自分なりに工夫して、サムと遊び、親の目を盗んではサムを部屋に入れて一緒に過ごした。
ある日のことだった。ずっとお腹を壊していたサムに母が怒った。そして突然サムの首輪を外すと、大きな声で「もう帰ってくるな」と言って、追い出したのだ。私の記憶が正しければ、そして兄が私に嘘をついていなければ、サムはそのまま消えた。一度だけ家の前に戻ってきたような気もする。サムを心配した私が明け方にドアを開けると、あの子が赤い首輪をして立っていたような気がする。いずれにせよ、消えてしまったサムはさほど長生きできなかったのではないかと思う。
サムがいなくなり、しばらくするとわが家に亀がやってきた。名前はかめ吉で、兄が家の前の川から捕まえてきた、10センチほどの大きさの亀だった。家の裏庭にあった石造りの水場にたらいのようなものを置いて、その中で飼っていたと思う。そのかめ吉はとても頭のいい子で、私と兄によく慣れた。呼べば来るし、手からエサを食べた。かめ吉はあっという間にどんどん大きくなって、私と兄の大事なペットになった。しかしある日、かめ吉までも姿を消した。これは後になって母が白状したことだが、母が川に戻したということだった。当時、亀がサルモネラ菌を持っていることが大きく報道され、それが原因らしかった。