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村井理子「犬と本とごはんがあれば 湖畔の読書時間」

長引く自粛生活のなかに始めた楽しみ—スランプは乗り越えられるか

 なんとかしてこの状況を打開したいと考えに考えて、重い腰を上げてはじめたのが、家のセルフリフォームだ。パソコンの前でぼんやり座っていると否が応でも目立つのが部屋の汚れだ。築一五年目を迎えたわが家は、あちこちが壊れている。丁寧な暮らしからはほど遠い、雑な人たち(+犬一匹)による乱暴な暮らしのおかげで、タイルは割れ、フローリングは傷つき、壁は汚れが目立っている。バスルームもずいぶんくたびれたし、キッチンは目も当てられない。セルフリフォームであれば納期がないし、嫌になったらやめればいいので気楽なものだとぼちぼち作業している。今はインターネットでほとんどすべての道具を揃えることができるから、うってつけである。

 数ヶ月前に自室の壁を白から深い紺色に塗り替え、壁の色が変わるだけで部屋の居心地が格段に良くなることに気づいたので、最近は家中の壁の塗り替えを検討し、塗料を選んでいるところだ。壁の色を塗り替えることを決めた途端、照明も変えたくなってきた。わが家の照明は少し暗めにしていたのだが、老眼が進むにつれ、文字が見えにくくなってきたため、この機会にもっと明るいものに変えたいと思う。銀行口座はすっかり寂しくなったが、もう自分を止めることができない。私の浪費癖を知っている家族は、またはじまったかと面白がっている。

 照明を変えると決めたら、今度は家具も欲しくなってきたため、夜な夜なインターネットを徘徊しては、好みの家具を物色している。買うと高いから、自分で書棚ぐらいは作ってみようかと夢想している。書棚を作ることができれば、バリバリに割れたタイルの補修だって自分でできるだろう。自分でできるようになれば、犬が暴れて割ったとしても腹が立たないはずだ。そう夜中に思いつき、タイルの補修に必要な道具まで揃えた。決して嫌いな作業ではないような気がする。いいんじゃないでしょうか、タイルを貼り替えられる翻訳者がいたとしても。悪くないんじゃないの、そんな自分。

 このようにして、なんとかスランプを乗り越えようと、涙ぐましい努力を重ねている。どうか、調子が戻ってくれますように、この大変な時期を乗り越えることができますように。

 さて、今回読んだのは、『直しながら住む家』だ。古い家をリノベーションして自分らしく作り替えるための一冊だが、中古物件を購入し、手を入れていく過程がよくわかり、写真を眺めるだけで楽しい。どれだけ気に入った家でも、中古住宅は他人が建てた家だから、家と住人が徐々に歩みよることで育てていくのだとあり、なるほどと納得した。これは自分で建てた家であっても同じだなと思う。気に入っていたスペースが、家族の成長や加齢に合わせて使い勝手が変わるようなことはよくあるからだ。そこに手を入れることで、愛着がうまれるのだろう。ピカピカにならなくてもいいのだ。居心地のよい実家とは、こんな家なのではと随所で感じられる一冊だった。

小川奈緒『直しながら住む家』(2020年4月/パイインターナショナル)
小川奈緒『直しながら住む家』(2020年4月/パイインターナショナル)
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村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な連載に「村井さんちの生活」(新潮社「Webでも考える人」)、「犬(きみ)がいるから」(亜紀書房「あき地」)。主な著書に『兄の終い』(CCCメディアハウス)、『村井さんちの生活』(新潮社)、『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』(亜紀書房)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)など。主な訳書に『サカナ・レッスン』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『黄金州の殺人鬼』『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』『エデュケーション 大学は私の人生を変えた』など。
最新刊は、家族の実話を描く書き下ろしのエッセイ『全員悪人』。すでに好評、話題となっている。

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ブログ:https://rikomurai.com/

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