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村井理子「犬と本とごはんがあれば 湖畔の読書時間」
翻訳家の村井理子さんによるエッセイ『兄の終い』。
実兄の孤独死をめぐる顚末を、怒り、哀しみ、そして、ほんの少しのユーモアで描いた話題作です。
『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『黄金州の殺人鬼』など、多くの翻訳を手掛ける村井さんが琵琶湖畔に暮らして、今年で15年になりました。
夫、10代の双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリー君と送る賑やかな毎日―。
古今東西の書籍にふれた村井さんは、日々何を読み、何を思い、どう暮らしているのでしょうか。
人気翻訳家によるエッセイ+読書案内。

義父母の介護体験、現在進行形―私は一度も娘であったことはなかった

 この年齢になると、周囲に病気に罹る人が増え、親の介護に苦労する人まで増えるなんて話は飽きるほど聞くし、いくらでも読む機会があるのだが、実際に自分自身がそうなってみると、あまりにも教科書通りにことが進むものだから、さすがに愉快になってくる。ちなみに、喪主として葬式を出す機会が巡ってくるというのも、残念ながら当たっている。

 二年前に大病を経験し、迷惑も大概にしてくれと半分怒りながら喪主として葬式も出した波乱の四十代を終えた私が、五十代に突入した今、現在進行形で経験しているのは親の介護だ。実の親は二人とも他界しているので、夫の両親の介護となる。介護と言っても、私が直接、例えば食事や着替えの介助をしているわけではなく、わが家のケースを担当してくれているケアマネと相談しつつ、公的サービスを利用しながら、二人の後期高齢者生活を支えている。ケアマネとの連絡はほとんどがメールを介したもので、てきぱきとビジネスライクで気楽なものだ。そもそも、夫の両親は生活の基本の多くを、それぞれが自立して行うことができるので、私がいわゆる「身体介護」を経験しているわけではない。どちらかといえば、時間を持て余す二人のために、余暇のスケジュールを組んでいるようなものだ……今のところは。

 結婚したばかりのころ、ご多分に漏れず私も義母と折り合いが悪く、関係はとことん悪化していた。二十代の血気盛んで頑固な私と、茶道教室を持ち、多くの生徒を抱えていた五十代の義母との衝突は、今思い出しても目眩めまいがする。この姑にしてこの嫁と、周囲はヘビ対マングースの戦いでも見るように、わくわくしていたに違いない。自分の理想とする嫁に育てあげるため(育て直すため)、下着から靴まで干渉し、何が何でも押しつけようとする義母と、干渉を嫌い、一切折れない私との死闘は、長年にわたって繰り広げられた。しかしそんな争いも、いつの間にか終わりを迎えた。

 きっかけは何かといえば、それはたぶん、老いだ。否が応でも経過していく時間を、自らの変化を、義母が現実として受け入れたのだ。そして、私と夫の人生への強い関心を失わざるを得なくなった。義母は、ただただ孫を愛する、穏やかな女性に姿を変えた。

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村井理子

翻訳家、エッセイスト。1970年静岡県生まれ。琵琶湖畔に、夫、双子の息子、ラブラドール・レトリーバーのハリーとともに暮らしながら、雑誌、ウェブ、新聞などに寄稿。主な連載に「村井さんちの生活」(新潮社「Webでも考える人」)、「犬(きみ)がいるから」(亜紀書房「あき地」)。最新刊は『兄の終い』 。主な著書に『犬ニモマケズ』『犬(きみ)がいるから』(亜紀書房)、 『村井さんちのぎゅうぎゅう焼き』(KADOKAWA)、『ブッシュ妄言録』(二見書房)など。主な訳書に『サカナ・レッスン』『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』『ゼロからトースターを作ってみた結果』『人間をお休みしてヤギになってみた結果』『黄金州の殺人鬼』など。
ツイッター:@Riko_Murai
ブログ:https://rikomurai.com/

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