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爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」

放課後のジャイアントスイングプリンセス

 そんな災難に遭いながらも、私と橘さんのプロレスごっこは部活引退の日まで続いた。「ボディスラム」に「足四の字固め」に「バックドロップ」と、いろいろな技の練習台としてこの身を捧げたが、ジャイアントスイングだけはお断りした。二度とチンチン丸出しカタツムリになってたまるか。

 結局、橘さんは高校に進学した後、家庭の都合で夢を諦めてしまう。四十歳を過ぎた今は地元の農協で働いているらしい。
 彼女がリングの上で大歓声を浴びることはなかったが、女子プロレスラーになることを夢見て練習に励んだあの輝く時間を共有できたことは、私にとってかけがえのない宝物である。

 橘 文香さん。
 お元気ですか?
 チンチン丸出しカタツムリです。
 あの日、あなたにジャイアントスイングでぶん回されているとき、私はゆりかごに揺られている赤ちゃんになったような気分でした。
 何も考えずにただ眠ってさえいればよかった日々。
 もう戻ることのできないあの頃の幸せな気持ちを思い出させてくれてありがとうございました。
 ただ、あなたが見た私のチンチンも赤ちゃんサイズだったことは忘れて頂ければと思います。
 中島みゆきの歌のように時代は回る。
 ジャイアントスイングのように時代は回る。
 楽しかったことも嫌なことも一緒くたにして時代は回る。
 辛かった過去を良い思い出にすり替えて時代は回る。
 すべての女の子との思い出を「恋」だと勘違いして時代は回る。
 だから私は、今まで巡り合ったすべてのクラスメイトの女子たちを全員好きになる。
 橘 文香さん。
 もちろん、あなたもその一人です。
 私はあなたのことが、あなたの力強さが本当に好きでした。
 ただ、風俗で高いオプション料金を払って、女の子にジャイアントスイングをしてもらう変態になってしまったのは、あなたのせいです。
 時代がどれだけ回ってもそれだけは変わりません。

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爪切男

つめ・きりお●作家。1979年生まれ、香川県出身。東京都中野区在住。
2018年『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。
同作が賀来賢人主演でドラマ化されるなど話題を集める。
2021年2月に『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、
3月に『働きアリに花束を』(扶桑社)
4月に『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)と
デビュー2作目から3社横断3か月連続刊行され話題に!
(撮影/江森丈晃)

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