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爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」
小学校から大学まで――
さまざまなクラスで、それぞれの出会いがあった。
教室で、体育館で、廊下で、校庭で……。
時が経っても鮮明に思い出す彼女たちの面影。
ロングセラー『死にたい夜にかぎって』の著者が贈るスクールエッセイ。

前回は、性差を超えた衝撃的で感動的な恋?のお話でした。

今回は最終回! 格闘技やプロレスが好きな同級生女子との小〜中、4年にわたるエピソードです。感動の、いや爆笑の涙でフィナーレを迎えるかもしれません。必読!

放課後のジャイアントスイングプリンセス

「この卑怯者!」

 目に大粒の涙を浮かべ、小学六年生のたちばな 文香ふみかは悔しそうに言った。私は無言のままエアガンの銃口を彼女に向け直す。

「女に銃を向けるとか恥ずかしくないんか!」

 橘さんはさらに声を荒げる。その金切り声にイラっときた私は、彼女の足元に「パン! パン!」とBB弾を二発撃ちこむ。私の威嚇射撃で「ひっ!」と後ずさりする橘さんを見て、周りにいた悪ガキ共がゲラゲラと笑い声を上げる。

 学校から歩いて五分のところにある町内公民館のグラウンド。地域住民に無料開放されているので、放課後は小学生たちの遊び場と化している。最高学年である六年生の男子グループがこの場所を支配するのが長年の習わしであり、今は私たちの天下となっていた。

 そこに単身乗り込んできた女の子。それが橘 文香だった。

 クラスメイトの橘 文香はいわゆる女番長である。
 スポーツ刈りに近い短髪と170センチに迫るほどの身の丈。実家は酒屋を営んでおり、親の手伝いで酒瓶を毎日運んで鍛え上げたその体は、いわゆるムキムキボディであった。
 クッキリとした目鼻立ちに、シャキッとした極太眉毛が印象的な橘さん。運動会でハチマキを巻いた姿が、当時流行っていたTVゲームの『大工の源さん』にそっくりだったので、クラスのみんなから「源さん」と呼ばれていた彼女。
 橘さんは正義感にあふれた女の子で、頼まれたら嫌とは言えない親分肌。恵まれた身体能力を生かし、取っ組み合いの喧嘩でも男子と互角以上に渡り合うファイターだ。
 女友達をいじめた悪ガキ共にひとこと文句を言ってやろうと、今日もこうして殴り込みをかけて来たわけである。

 当時の私は悪ガキグループに属してはいなかったが、彼らの宿題を肩代わりしてあげるなど、常にいじめっこのご機嫌を窺う腰巾着だった。悪ガキたちに好かれてさえいれば、自分がいじめの対象になることはない。そんな小狡い計算ができる嫌な子供、それが私だ。

 橘さんが乗り込んできたそのとき、私たちはエアガンの撃ち合いをして遊んでいるところだった。これは悪ガキたちに気に入られるチャンスだと直感した私は、即座に彼女に銃口を向けた。

 しかし、エアガンはいい。安全な距離から相手を攻撃できるのがなんとも素晴らしい。幼い頃から私に対してDVに近いスパルタ教育を課してきた親父に対し、私はエアガンを手に戦いを挑んだ。そして、敗れはしたものの、徹底的な遠距離攻撃を駆使し、あの屈強な親父を苦しめることができた。そう、この銃が私の世界を変えてくれたのだ。
 橘さんは「女に銃を向ける奴がいるか」と私を𠮟責したが、私はすでに親を銃で撃っているんだ。こっちはもう一線越えちゃったんだよ。これ以上痛い目にあいたくなければ大人しくしていろ。

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爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』を連載中。2019年11月末に扶桑社より文庫版『死にたい夜にかぎって』発売予定。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

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