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爪切男「クラスメイトの女子、全員好きでした」

金的に始まり、金的に終わる恋

 田代さんは身長135センチと大変小柄だが、男勝りの性格から、五年二組の女子の中では姉御的存在を担っていた。前髪を真ん中で分けて、綺麗におでこを出したポニーテールの女の子。パッチリとした目と身長の低さも相まって、田代さんは『ハクション大魔王』のアクビちゃんによく似ていた。

 スカートめくりやらなんやらで常に女子に迷惑をかけていた福岡君に対し、遂に田代さんの堪忍袋の緒が切れたというわけだ。なんでも彼女は五歳のときから極真空手を習っているそうで、男子がションベンを漏らすほどの正拳突きを打てるのも納得だった。

「他にもいつもいじめてくる男子おるやろ! 出て来いよ! やったんぞ!」

 一人殺ったらあとは何人殺っても同じだと言わんばかりに、田代さんはドスの利いた声で啖呵を切り、ファイティングポーズをとる。
 昼休みのだらけた雰囲気に支配されていた教室内に一気に緊張感が走る。
「調子にのんなよ、チビ!」
 すると、親分の仇だと言わんばかりに、福岡君の舎弟が二人がかりで彼女に襲い掛かった。

 田代さんは華麗なサイドステップで一人目の突進を交わし、「エイヤ!」と片膝を付いた状態からの正拳突きを相手の下腹部に叩き込む。「うぁぁ……」と力なくその場に崩れ落ちるいじめっこA。何と美しい「古今和歌集」だろう。続けて背後から忍び寄ってきたいじめっこBには、裏拳のような形で金的を炸裂させる。この技に名前をつけるなら「奥義・裏古今和歌集」とでも名づければいいだろうか。

「なんや、男もチンチン殴ったらこんなもんかい! 情けな!」

 胸の前で両腕を交差し「押忍」のポーズを決める田代さん。身長135センチの小さな女空手家が革命を起こした。その歴史的光景を見届けた教室内は、一気にどっ!と沸き返る。
 一部始終を教室の隅で眺めていた私は、自分の胸が静かに高鳴るのを感じていた。

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爪切男

つめ・きりお●作家。東京都中野区在住。2018年1月、『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)にてデビュー。現在、週刊SPA!にて勤労エッセイ『働きアリに花束を』を連載中。2019年11月末に扶桑社より文庫版『死にたい夜にかぎって』発売予定。また、中央公論新社BOCにて好評を博した『男じゃない女じゃない仏じゃない』も来年書籍化予定。トークショー、物言わぬ変人役でのドラマ出演、サウナコンテストの審査員など、作家以外の活動も多種にわたって迷走中。

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