よみタイ

稲田ズイキ「罰当たりなほどにユルくてポップな仏教トーク」

猛暑を仏教的に乗り越えようと考えたら、結論は「竹になること」だった

それはきっと夏の精

「なんだこいつ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

とジョイマンのごとく、ひとしきりリアクションを済ませると、彼は自分を「夏の精」だと言った。

ひどく狂気に満ちた現象だったが、「なんだ夏の精か」と状況を鵜呑みにしてしまった自分も今思えば常軌を逸していたのだろう。それもこれも夏のせいだ。

もっと熱くなれよ!!!!!!

夏の精は仏のビジュアルのくせに異常なくらい熱かった。熱帯夜に地球で最も熱いヤツと対峙していたのだ。
この時、すでに世界で一番アツイ禅問答の幕が上がっていたことを僕は知らない。

「いや、こっちはもうすでに暑くて死にそうなんだよ」とマジレスをかます。
すると、夏の精はまるで舞台上の役者のように、部屋を大きく闊歩しながら、存在するはずのないカメラ目線でものを語っていく。

「悔しいだろ?」

悔しくはない。暑いだけなんです。と心でツッコミしても精は止まらない。

「悔しいよな? 思うようにいかないことたくさんあるよな? どれだけ暑いのが嫌だとしても、涼しくはなれない。そんな時があるんだよ!人生は思うようにいかないことばかりなんだよ!!!!!!!!」

「『心頭滅却すれば火もまた涼し』だろ? もっと熱くなれよ!!!!!!!!!!」

もはや暑さよりも「うるさい」という感情が勝っていたが、その不思議な「圧」に押されて、いつの間にか耳を傾けている自分がいた。
熱苦しさの中にほのかな仏エッセンスの香りを感じていたからなのかもしれない。

ただ、暑さを暑さとして認識する

でも、納得できないものは納得できない。反論を続けた。

「要するに根性論? 暑いもんは暑いじゃん」

そう言うと、夏の精はなんもわかっちゃいねぇと言いたげな風に首を横に振った。

「いいか、圭、もっとクールになれよ」

少なくとも自分は圭ではないし、そもそも熱くなってほしいのかクールになってほしいのかどっちなのだろうか。

「ただ、暑さを暑さとして認識するんだ」

一体何を言っているのだろうか。
ただ暑さを暑さとして認識する? 暑いものは暑いのだ。

「そりゃ誰だって、暑い。でも、『暑いこと』と『苦しいこと』って別じゃないか?どうして諦めるんだよそこで!諦めんなよ!諦めんなお前!もう少し頑張ってみろって!ダメダメダメダメ諦めたら!!!!!」

諦めに対する異常なまでの拒否量はともかく、言っていることはなんとなく分かった。
冷静になってみると、たしかに「暑い」と同時に「苦しい」を感じている自分がいるのだ。

「条件反射的に『暑い=苦しい』を意識してしまっているから、自分の認識のプロセスを一から解きほぐすことが大事だ」と精は続けた。

「いいか圭、『室温が高い』っていうのはただの現象だろ? ただ空気中の原子が運動しているだけのことじゃないか。それに対して、まず圭は肌を伝って『おや?」って感じたはずだ。何事も感情の前にそういう感覚があるんだよ。その後、その感覚に対してこれまでの経験から『暑い』ってイメージを頭の中で紐つけてるんだ。そのイメージに対応して『うわっ!暑いのやだ』っていう意志が生まれてるんだよ!」

精曰く、世界はそうやって存在している。それを仏の世界では「五蘊ごうん」というのだそうだ。

色(しき):物質・現象(原子が運動している)
受(じゅ):感知・感覚(肌を伝って何かを感じる)
想(そう):イメージ(感じたものが「暑さ」であると頭の中で当てはめる)
行(ぎょう):意志(「暑いのはイヤだ」と思う)
識(しき):経験や体験によって蓄積されていく認識自体のこと(やっぱり暑いのはイヤだと記憶する)

少なくとも、夏の精の言っていることが、ただの根性論ではないことが分かった。
人間が一つの感情を持つまでの過程を彼は説明していたようだった。

とはいえ「そんな言っても暑いものはしんどいじゃん!どうやって暑いことと苦しいことを分離して認識するんだよ!」そうマジレスをかました。

「圭。この世界は誰だって頑張ってるんだよ。あの人も、またあの人も、ミミズだってオケラだってアメンボだって頑張ってんだから!!!!」

ハァ!?!?

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稲田ズイキ

いなだ・ずいき●僧侶。1992年京都の月仲山称名寺生まれで現・副住職。同志社大学を卒業、同大学院法学研究科を中退、その後デジタルエージェンシー企業インフォバーンに入社。2018年に独立し、寺に定住せず煩悩タップリな企画をやる「煩悩クリエイター」として活動中。コラム連載など、文筆業のかたわら、お寺ミュージカル映画祭「テ・ラ・ランド」や失恋浄化バー「失恋供養」、煩悩浄化トークイベント「煩悩ナイト」などリアルイベントを企画しています。フリースタイルな僧侶たちWeb編集長。Twitter @andymizuki
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竹内佐千子

たけうち・さちこ●漫画家。おっかけ対象が男子で恋愛対象が女子のレズビアン。
自身の恋愛体験を描いたコミックエッセイをはじめ、おっかけ、腐女子、などをテーマにしたコミックエッセイを描き続け、最近はストーリー漫画も描いている。
赤ちゃん本部長』(講談社)、『生きるために必要だから、イケメンに会いに行った。』(ぶんか社)など。
ホームページhttp://takeuchisachiko.jp/
Twitter @takeuchisachiko

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