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宇宙のゴミ問題に立ち向かう! 「アストロスケール」社が目指すサステイナブルな未来

アストロスケールは寿命を迎えた人工衛星などの除去事業などを展開する予定です。
これは宇宙デブリが増えていく要因になる物体を除去することで、ゴミの拡散を防ぐことが目的となっています。
最終的に未来の宇宙開発の安全性を保証するものであり、地上で注目を集めているサステナビリティ(持続可能性)を宇宙でも実現していくことを目指しています。

そのためにアストロスケールは、宇宙デブリ除去の技術実証を目的とした衛星「ELSA-d(エルサディー)」のミッションを宇宙で行いました。
軌道上での宇宙デブリの動きは、高速で動いているだけでなくそれ自体が回転していたりと複雑で、これらの確保を行うことは高い技術が必要となります。
この技術実証では、捕獲衛星と模擬デブリを一緒に打ち上げ、軌道において一度切り離し、擬似デブリを無重力空間で確保できるかを実証しました。イメージは、ベッドに寝っ転がって上にボールを投げてはキャッチするセルフキャッチボールを宇宙空間で行う、といった感じです。

無事にこの捕獲技術実証を成功させ、2024年にELSA-dは運用を終了しました。現在は「ADRAS-J」という新たな技術実証ミッションを行っています。
これは、宇宙に放置された本物のデブリに接近し、その運動や損傷・劣化状況の撮影を行うことが主な目的です。こうした宇宙デプリの除去に向けた各フェーズでの作業を、技術実証を重ねて検証しているのです。

衛星「ELSA-d(エルサディー)」の宇宙空間での模擬宇宙デプリ、捕獲機のイメージ図 画像提供/アストロスケール
衛星「ELSA-d(エルサディー)」の宇宙空間での模擬宇宙デプリ、捕獲機のイメージ図 画像提供/アストロスケール

2020年代後半には、イギリス宇宙庁との連携プロジェクトで、ヨーロッパの衛星2機の除去を主導するミッションも控えています。今後のサステイナブルな宇宙開発の未来を体現していく姿には期待が高まります。
事業として成り立つ将来性だけでなく、宇宙空間でのデブリの状態や経年劣化の様子などの科学的データも有用性があり、今後ますますニーズが高まっていく企業になるでしょう。

アストロスケールの技術は世界的にも注目度が高く、経営トップが海外渡航する際は厳重なセキュリティ対策が敷かれる、という噂が宇宙業界ではまことしやかにささやかれているほど。

あくまでゴシップ的な噂でしかありませんが、妙な納得感も感じてしまいます。
その理由は「テロにも使えうる技術」だからです。宇宙には、有名な人工衛星もたくさんありますが、国防目的の機密人工衛星もあります。それらを宇宙デブリと同じように排除することもできてしまう技術であることから、こういう噂が流れる理由もわかります。警戒される理由も納得できるのです。

破壊される人工衛星のイメージ図
破壊される人工衛星のイメージ図

しかしこれは何もアストロスケールの技術に限った話ではありません。
ロケットと弾道ミサイルがいい例です。ロケットとミサイルはそのフォルムも似ていることからわかるように、ベースにある技術は共通しています。ですが、大きな違いは目指す先と目的です。

ロケットは宇宙を目指し、弾道ミサイルは放物線を描いて地上のどこかへ飛ばされます。宇宙産業は使用目的が異なるだけで軍事に関係するテクノロジーになってしまいます。この両者は密接に関わりながら発展しているからこそ、表裏一体とも言えますね。

そんな中、2021年に世界に衝撃を与える事件がありました。ロシアがなんと、宇宙空間にある人工衛星を破壊する実験を他国に無断で実施したのです。人工衛星を宇宙で破壊する行為は、故意に宇宙ゴミを増やす行為であり、世界的に大きな騒動となりました。

この実験による他衛星の連鎖破壊などは報告されていないものの、今後この影響がどこかに出るかもしれません。

この実験が公表されたときには、日本、アメリカからこの行為に対する緊急声明が出されました。その後、2023年に行われたG7の外相会議にて、これらの国での人工衛星破壊実験の禁止宣言も出され、ロシアのこのような実験に対する牽制の動きも出ています。

アストロスケールのような企業が、未来の宇宙開発の安全性を守ろうとしている中でのこのような行為は、されるべきではないですね。

宇宙事業が今のように注目され始める前から動いていた企業が上場をし始め、世の中での注目度がさらに高まっています。

一般的に認知されているわけではないですが、世界的に存在感を示している宇宙スタートアップ企業は多くあるので、これから更に世間を賑やかせてくれることを期待しています。
また、このように宇宙開発のサステナビリティを守る企業が、これからも注目を集めてほしいと思っています。

この記事のお供はこのお酒!

 ドイツ・モーゼルのヤン・マティアス・クライン氏が手がけた「リズィー スター マスト ペットナット 2019」。デヴィッドボウイの名曲「Ziggy Stardust」から名づけられたというナチュラルワインです。今回はスターダスト(星くず)から、人工的な星くずである宇宙デブリを連想してチョイス。微発泡のワインで、柑橘系のような林檎のような味と酸味に宇宙感を感じます。探せばまだワインショップにあるかも!?(一部通販サイトにて購入可能)

 次回連載第17回は7月12日(金)公開予定です。

参考資料

時速数万kmで飛び回る–ますます増え続ける「宇宙ゴミ」問題はなぜ深刻なのか?/UchuBiz 2023年7月31日

アストロスケール

ロシア政府による衛星破壊実験について(外務報道官談話)/外務省 2021年11月18日

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佐々木亮

ささき・りょう
理学博士。独立行政法人理化学研究所、NASAの研究員として研究に携わり、その経験と知見を生かし、ポッドキャスト「佐々木亮の宇宙ばなし」を毎日配信している。旬の宇宙トピックスを親しみやすく解説する内容で注目を集め、Apple Podcast日本ランキング3位を達成。第3回Japan Podcast Awardsも受賞する。現在はデータサイエンティスト、中央大学講師として活動している。
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