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鈴木涼美「アラサー女がそんなことで喜ぶと思うなよ」
めでたく30歳を過ぎた鈴木涼美がおくる「アラサー女性論」。30代になった女が失うものは? 得るものは? なにかが変わるのか? 時代を鋭く読み取る元セクシー女優にして社会学者の気鋭のコラム。

謝らない男たちが守りたいものとは〜ぼくのゴメンネのぼうよみ

立ち退かない市民に火をつけろと言った首長が一瞬お茶の間の話題をさらったが、すっかりショボくれて、あからさまに後悔と反省をして、しかも自分の非を思いっきり認めて謝罪をしたものの、謝っただけでは結局誰にも許してもらえず、志半ばでの辞任を余儀なくされた。
正直、その場で反論せずにこっそり録音してちょうどよい時期をうかがってマスコミに売り付ける職員の男気ゼロっぷりも見上げたものだが、パワハラとセクハラはされたもの勝ち、が常識の2010年代において、後から謝ることになるようなことをキレた勢いで発しちゃう首長の迂闊さもなかなかなので、全体的に自業自得との見方が優勢である。

男に謝らせるのは犬にニャーと鳴かせるくらいは難しい

で、そんなパワハラ首長にはめっぽう厳しい世間様ではあるのだが、人のふり見て我が身を直さないことと、悪びれもせずものすごく器用に自分を棚にあげることが彼らの特技なのか、日常生活においてはこの首長のような振る舞いは頻出するし、なぜかその場合には謝っているオレに対して、なかなか許せないオマエは、大変な悪党扱いをされるのである。

先日、渋谷駅半蔵門線のホームで、モラハラ系の背の高い彼氏と、足の太いミニスカートの彼女が言い争っている現場に遭遇した。

言い争っているというか、正確には「は?意味わかんねーし」とか「馬鹿なんじゃないの」とか「きもい」とかいう男に対して、半泣きの女がひたすら「さっきの謝って」「とりあえず謝って」「謝って謝って謝って」と抗議していた。
この状況でその彼氏は絶対に謝らない、に1000円賭けつつ、興味深いので乗るはずだった押上行の電車を二本ほど見送りつつ、彼らの真後ろに陣取って携帯をいじるふりして私は1人で聞き続けていたのだが、途中からは彼女による、「あなたの言っていることはこれこれこういう理由で理にかなっていない」及び「あなたのしていることは明らかに矛盾していて間違っているのだから非を認めるべきだ」の反撃が始まり、もちろん男の方に非を認める様子も不毛な喧嘩を終わらせるためにとりあえず謝るという様子もなく、あえなくタイムアップで私が電車に駆け込むまで、双方キレまくったまま平行線だった。

男に謝らせるのは犬にニャーと鳴かせるくらいは難しい。
誰しも経験があると思うのだが、親切に対象を最小限に絞って、少なくともここはあなたが間違っている、と言ったところで、そして明らかに本人的にも「たしかに」とか「言えてる」とか思っていそうな雰囲気がそこそこ漂っていたところで、その場ではほとんど外敵からヒナを守る親鳥のごとく、「ごめんね」を頑なに守る。

守ると何かご褒美があるのだろうか。
人狼ゲームとかそっち系の何かなのだろうか。
あるいは3って言ったらバカになる的なアレで、ごめんねって言ったらバカになると思っているのだろうか。
前世がフランス人のウエイターか何かで、皿を割っても「この皿は今日割れる運命だった」とか主張していたんだろうか。

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鈴木涼美

すずき・すずみ●1983年東京都生まれ。作家、社会学者。慶應義塾大学環境情報学部を卒業後、東京大学大学院学際情報学府の修士課程修了。大学在学中からキャバクラ嬢として働きだし、20歳でAVデビュー、出演作は80本以上に及ぶ。2009年から日本経済新聞社に勤め、記者となるが、2014年に自主退職。女性、恋愛、セックスに関するエッセイやコラムを多数執筆。
公式Twitter → https://twitter.com/suzumixxx

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