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南和行「離婚さんいらっしゃい」
離婚をめぐるたくさんの悩みやさまざまな葛藤。そこには、夫婦、家族の数だけドラマがある。夫婦関係で悩んでいる人たちが、自分の人生を取り戻せるヒントが得られることを願って……大阪で弁護士として働く著者が架空でつづる離婚をめぐるセミノンフィクション。

第6回 私は夫を求めたいから(上)

【プロローグ】

前回のトト子さんは、典型的なDV被害者でした。

自分で書いておきながらナンですが、
弁護士としての私の感想は、
実際のケースはあんな甘いもんじゃないというものです。

殴る蹴るというケースも少なくないですし、
実際のケースでは、被害者はもっとボロボロになっていて、
トト子さんのように自分で何か考えることすら、
難しい人が多いです。

周りの人に励まされて、
1ヶ月のうち1回あるかないかのちょっと心の元気な日に、
やっと弁護士に相談に来るような人もいます。

女性のDV被害のことは、またいつかあらためて。

今日のカジ子さんは、どんな相談でしょうか。

【カジ子の場合】

シングルマザーのカジ子が出会った再婚相手

カジ子にとって今の夫とは2回目の結婚だ。

1回目の結婚の夫とは、
二十歳のときに合コンで知り合い、
デートをダラダラしているうちに、
「できちゃった婚」となった。

しかし、1回目の夫は、
デートは楽しくても、
一緒に暮らすのは居心地が悪い男だった。

ひとり娘が4歳、カジ子が25歳のときに離婚した。

シングルマザーとなったカジ子は、
宅配便の配達スタッフのバイトをしていたが、
仕事先で誘われた飲み会で知り合った男に、
自分から声をかけたのが今の夫だ。

カジ子は第一印象で夫のことが気に入った。

左右に流しているだけの黒髪がサラサラで、
メガネの奥の一重まぶたが涼しかった。

目鼻立ちがはっきりしていて、
日焼けが似合うサーファー顔のカジ子とは対照的だった。

夫は顔立ちと同じように、
性格も真面目でおとなしかった。
それもカジ子とは対照的だった。

カジ子は、知り合った日に夫を誘ったが、
カジ子が「シングルマザーで子供がいる」と告げると、
その日は断られた。

ただそのときに、

「カジ子さんに子供がいるほうが、
 かえって自分へのプレッシャーが少ない気がして、
 安心して付き合える」

と言われた。

「子供がいるほうが安心できる」と言った夫

シングルマザーになってから、
遊び相手の男は何人かいた。

ただその中には、そんな真面目なこと、
「子供がいるほうが安心して付き合える」
と言うような男は誰一人いなかった。

カジ子は、もう29歳になっていた。

こんな真面目な男と一緒に暮らしたら、
自分の生活も、娘の生活も、
今までと全く違う新しいカタチになるような、
そんな期待をしてしまった。

付き合っている間、
二人っきりになって誘えば夫はセックスをした。

カジ子が雰囲気を作り、
カジ子がホテルに誘い、
カジ子がリードすれば、
夫はメガネをかけたまま、
自分の右腕で顔を隠すような仕草で、
最後までした。

カジ子はそんなガツガツしない夫に物足りなかったが、
それは結婚したら解決するように思った。

そして娘を交えたデートのほうが、
夫も楽しそうにしていたから、
カジ子は、結婚することが正解のように思った。

カジ子が「そろそろ結婚しよう」と言うと、
夫はあっさり承諾し、
カジ子は2回目の結婚をした。

双方の両親への挨拶はしたが式はせず、
カジ子と夫と娘の3人で写真だけを撮った。
夫は初婚だったがそれでいいと言ってくれた。

セックスがない!

ところが、結婚してから、
夫とのセックスが完全になくなった。

娘が小学校の行事でいない夜、

カジ子から夫の布団に潜り込んで、
夫の下半身を触ってみたが、
夫には完全に「寝たふり」をされた。

自宅のアパートの布団でという生活感が、
夫にとって「その気」をそいだのであればと、
カジ子は、休日の昼間、
夫と二人で外出する予定を立て、
知り合った頃のようにホテルに誘ってみた。

そのときも夫は「気づかないふり」をし、
カジ子はけっきょくホテルに連れ込めなかった。

そしてカジ子にとって屈辱だったのは、
夏休みに3人で出かけたテーマパークの家族旅行だった。

テーマパークのオフィシャルホテルのファミリールームだったが、
遊び疲れた娘は部屋に帰ると早々に寝息をたてた。

カジ子は、娘の穏やかな寝顔と、
それを優しそうに見つめる夫に、
「再婚してよかった」という気持ちになった。

自然な気持ちで夫のベッドに入り、
夫の身体に両腕を巻き付けて、
夫の腕に顔をうずめた。

「結婚してくれて、ありがとう」とカジ子が言うと、
夫もカジ子の髪を手でなでながら
「僕こそありがとう」と言ってくれた。

カジ子は、夫から「ありがとう」と言われ、
せきを切ったように全てを解き放ちたい気持ちになった。

夫を自分の全てで包み込みたい気持ちになったカジ子は、
自分の顔を夫の布団の中に潜らせて、
夫のパジャマの上から夫の股間に唇をつけた。

と、その瞬間、夫が身体をぐっと起こして、
両腕で布団を払いのけながら、

カジ子の身体をベッドの反対側に反転させた。

「もう子供はいらないから、
 そういうの、なくていいじゃない」

と夫は言った。

カジ子にとって初めて味わう屈辱感だった。

夫は男としての満足のために結婚したのだろうか

カジ子は、夫のことを嫌いにはなれなかった。
憎いとも思えなかった。

シングルマザーだったカジ子は、
夫の稼ぎのおかげで生活は楽になり、
娘の笑顔が増えた。

再婚によりカジ子は、
目に見える「幸せ」を取り戻した。

しかし、カジ子は、
ずっと渇望したままになるのだろうか。

カジ子は別にもうひとり子供がほしい、
と思っているのではない。

あの日のカジ子の感情は、
むしろ夫への「感謝」であり、
夫と全てを共有していたいという、
純粋な「愛情」だった。

カジ子にとって、
お互いの気持ちを確認することが、
身体を重ね合わせることだった。

カジ子は、自分が夫を愛しているだけでなく、
夫も自分のことを愛しているからこそ、
再婚をしたと思っていた。

カジ子は、これから永遠に、
気持ちを確認し合うことは、
できないのだろうか。

夫は単に、カジ子と娘を養っている、
男としての満足のためだけに、
結婚したとでもいうのだろうか。

【弁護士からカジ子へ】

セックスするために結婚したのですか?

セックスレスが夫婦の不協和音の原因であることは、
少なくありません。

カジ子さん夫婦は、典型的なセックスレス夫婦ですね。

カジ子さんは、
夫がセックスを拒否する理由について、
「じゃあなんで結婚したの?」
と思っているのですね。

でも、じゃあ、結婚の目的は、
「セックスすること」なのでしょうか?

それも違いますよね。

カジ子さんの前の結婚が「できちゃった婚」だったように、
結婚していない二人でもセックスはします。

また、結婚できない関係、
それこそ二人の既婚者の間で、
ついつい不倫のセックスをしてしまうことはあります。

もちろん不倫の場合は、
不倫相手への慰謝料請求など、
「そんなセックス許せません」ということを、
言うことはできます。

でも、それだって結婚相手に対して、
「自分とだけしかセックスしちゃダメ」
と言えるに留まります。

要するに結婚したからといって、
「さぁ、私と積極的にセックスしなさい」
と言うことはできないのです。

だから夫婦間でもレイプは犯罪です。

離婚するかしないかの裁判になった場合、
理由無くセックスを拒否することが、
離婚理由として認められることもあります。

だからカジ子さんも、
離婚裁判まで突き進めば、
夫に対して「セックスしない理由」を問いただせます。

でも、それだって、
セックスレスの怒りをぶちまけることしかできず、
セックスレスそのものは、
どうすることもできないのです。

【カジ子のその後】

セックスするために結婚したんじゃありません

カジ子は、夫とのセックスレスに、
こだわることをやめた。

セックスするために結婚したのですか?

と弁護士に言われたとき、
「セックスするために結婚したんじゃありません」

とカジ子は答えた。

同時にカジ子は、
「じゃあなんのために結婚したの?」
と自分に問いかけた。

シングルマザーにだったカジ子に、
遊びとしてのセックスを、
求めてくる男は何人かいた。

でも、カジ子はそんな男達とは、
再婚したいと思わなかった。

「子供がいるほうが安心して付き合える」

と夫が言ったときに感じた、
「この人とならまた結婚できるかもしれない」
という気持ち。

たしかにカジ子だって、
娘の父親になってくれそうだったから、
再婚を決めた。

でも、やっぱり。

カジ子は、単純に女として、
夫のことが好きだった。

セックスをしたいと思う自分は、
ふしだらなのだろうか。

(下)に続く

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南和行

みなみ・かずゆき●1976年大阪府生まれ。京都大学農学部、同大学院修士課程卒業後、大阪市立大学法科大学院にて法律を学ぶ。2009年弁護士登録(大阪弁護士会、現在まで)。2011年に同性パートナーの弁護士・吉田昌史と結婚式を挙げ、13年に同性愛者であることを公言する同性カップルの弁護士による弁護士事務所「なんもり法律事務所」を大阪・南森町に立ち上げる。一般の民事事件のほか、離婚・男女問題や無戸籍問題など家事事件を多く取り扱う。著書に『同性婚―私たち弁護士夫夫です』(祥伝社新書)、『僕たちのカラフルな毎日―弁護士夫夫の波瀾万丈奮闘記』(産業編集センター)がある。
大阪の下町で法律事務所を営む弁護士の男性カップルを追った、本人とパートナー出演のドキュメンタリー映画『愛と法』が話題。
・なんもり法律事務所
http://www.nanmori-law.jp/
・南和行のTwitter
https://twitter.com/minami_kazuyuki
・吉田昌史のTwitter
https://twitter.com/yossy_nan

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